
マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の用語や問題を解説するシリーズ。今回は、部下とのコミュニケーションについて考察します。
はじめに
「良かれと思って部下を褒めているのに、なぜか成長しない」「厳しく指導しているつもりだが、部下の主体性が育たない」と悩む管理職の方は多いのではないでしょうか。実は、多くの管理職が行う「褒める」「叱る」といった感情的なフィードバックは、部下の成長を阻害する「錯覚」を生み出す原因になります。人の行動を真に変えるのは、感情ではなく「事実」の提示だけです。
この記事では、部下が自ら目標との「不足」を認識し、具体的な行動変化を起こすための、感情を排した「事実ベースのコミュニケーション」の絶対ルールをご紹介します。このルールを組織に定着させることで、部下の自律的な成長を促し、組織全体の成果を最大化させる道筋が見えてくるでしょう。
成長を阻害する「感情的なフィードバック」の罠
多くの管理職が、部下へのフィードバックを「褒める」か「叱る」かの二択で行いがちです。しかし、これらは感情を伴うため、部下の行動改善ではなく、上司の顔色を窺う行動や、一時的な満足感に繋がってしまう危険性があります。
例えば、「君はよく頑張っているね、その姿勢は素晴らしい」と褒められた部下は、「頑張っている自分」に満足し、実際の結果が目標に届いていなくてもその努力自体で満たされてしまう「錯覚」に陥ります。
一方で、「なぜ、こんなミスをしたんだ、もっと真剣にやれ」と叱られた部下は、叱られたという感情的な衝撃に気を取られ、本質的な行動の不足や改善点に冷静に目を向けられなくなります。結果として、萎縮して上司の指示待ちになったり、自己防衛的な言い訳を探したりするようになります。
部下の行動を真に変化させるのは、感情ではなく、「事実」と「目標」とのギャップ、つまり「不足」の正確な認識です。上司の役割は、部下の感情を作用することではなく、この「事実」を提示し、部下が自ら「不足」を埋める行動を設計できるように促すことに尽きるのです。
行動変容を促す「事実ベース」4ステップ
部下の成長と行動変化を促すために、「事実ベースのコミュニケーション」の4ステップを提案します。これは、週次会議などの進捗を確認する会議に習慣化することで、部下の自律的な成長を促進できます。
このサイクルの期間は業種業態にもよりますが、基本的に毎週実施することで、ひとりひとりの成長を促し、それを組織全体の成長につなげていきます。
ステップ1:上司側が目標を明確に示すこと
コミュニケーションの出発点は、誰の目から見ても明確で、計測可能な「目標」を上司側が示すことです。目標が曖昧であれば、結果の報告も曖昧になり、事実ベースの議論は成立しません。
「頑張る」「努力する」といった抽象的な言葉ではなく、「〇月〇日までに、Aという指標をBという数値にする」といったように、「事実」として達成可否が判断できる状態にします。この明確な目標設定が、以降のステップにおける「不足」の明確化を可能にする土台となります。
ステップ2:結果報告と「不足」の明確化
目標期間が終了したら、部下はその期間の結果について、感情を排した「事実」に基づき報告します。そして、結果が未達の場合、部下は、出た結果と目標の差分、すなわち「不足」を具体的な数値や状態として明確にします。
上司の役割は、部下が自ら導き出した「不足」の認識が客観的な事実に基づいているかを確認することです。そのため、ここで、上司が結果に対する失望や評価を加える必要はありません。重要なのは、「事実」と「目標」の間のギャップ(不足)を、部下自身が正確に認識できたか、という点に尽きます。
ステップ3:不足を埋める「未来の行動変化」の設計
「不足」が明確になったら、次のステップは、その不足を埋めるための具体的な行動設計です。上司は、「なぜ、未達成になったのか?」という過去の質問ではなく、「次、どのようにするのか?」のような未来の質問を投げかけます。これにより、部下の視点を過去の出来事から未来の行動にスライドさせ、思考を前進させます。
部下は、不足が生じた要因を自分なりに分析し、その不足を埋めるための具体的な「行動変化」を上司に説明します。
ここで上司が肝に銘じるべきは、「上司はやり方に口を出してはいけない」ということです。上司が「このやり方でやれ」と指示を出してしまうと、部下は上司の指示通り動くだけの人間になり、自ら考えなくなります。これは部下を思考停止に追いやり、成長を阻む最大の要因となります。
部下が提案してきた行動変化の根拠が、あまりにも目標達成の確立が低い荒唐無稽なものである場合は指摘をしますが、部下が真剣に考えて持ってきた行動変化であれば、上司はその行動変化の根拠を確認した上で、肯定し承認します。もし、その行動変化で失敗したとしても、それは部下にとって次の成長に繋がる貴重な経験となります。過去のできなかったことよりも、今後どのような改善をするかに部下の視点が向くようにすることが、上司にとって最も重要な役割となるのです。
ステップ4:次の目標達成の「約束」
最後に、部下は不足を埋めるための行動変化を実行することで、次の目標を達成することを上司と「約束」します。
この約束は、上司と部下の間の公式な取り決めであり、単なる「頑張ります」といった表層的なその場しのぎの薄っぺらい言葉であってはなりません。上司は、部下に対して「その行動変化によって次こそは目標達成できる?」「次回は大丈夫ですか?」などと確認し、その真剣な取り組み姿勢を承認することで、この約束の重みを担保します。この時、上司は決して詰問するような形にならないよう口調に配慮する必要があります。
この「約束」こそが、部下に次の行動への責任感と、目標達成へのモチベーションを生み出す源泉となるのです。
なぜ「褒めない」「叱らない」で人は育つのか
この「事実ベースのコミュニケーション」のサイクルでは、「褒める」ことも「叱る」こともありません。一見、冷たいように感じられるかもしれませんが、この非感情的なアプローチこそが、部下の自律的な成長を促します。
部下は、上司の感情に依存することなく、「目標」という客観的な事実と、「結果」という揺るぎない事実だけに向き合います。これにより、「不足=成長の機会」と冷静に捉える思考回路が養われます。
褒められれば一時的に満足し、叱られれば一時的に萎縮するという感情の波に左右されることなく、常に自分の現在地と、次にとるべき具体的な行動に集中できるようになるのです。
そして、このサイクルの最大の効果は、内発的動機の発生にあります。
上司から言われたやり方ではなく、自ら真剣に考えた行動変化によって目標を達成できたとき、真の「達成感」を自己発生させることができます。これを内発的動機と言います。この「自分の力でやり遂げた」という強い達成感によって、「もう一度、自分の力で目標を達成したい」という気持ちが生まれます。
この「もう一回達成したい」という強い内発的動機こそが、部下の行動を継続させ、成長を加速させる真の原動力となるのです。上司の役割は、感情的なフィードバック役ではなく、部下が自ら行動を設計し、内発的動機を獲得できるプロセスを設計し、事実を提示し、行動を承認する「機能」となることです。
まとめ
多くの管理職が良かれと思って行う「褒める」「叱る」といった感情的なフィードバックは、部下に「錯覚」を生み出し、成長を阻害します。部下の成長を加速させる絶対ルールは、「感情を排した事実ベースのコミュニケーション」を週次で習慣化することです。
上司は、明確な目標を提示し、部下が提出した「事実ベースの結果」から「不足」を認識させます。そして、「次、どのようにするのか?」という未来の質問で、部下に自律的な「行動変化」を設計させます。上司は部下のやり方に口を出さず、真剣な行動設計を承認し、次の目標達成を「約束」させます。
このサイクルを通じて、部下は「上司の顔色」ではなく「目標達成」という事実にフォーカスし、自ら考え、行動し、結果を出すことで「内発的動機」という真の達成感を獲得します。そして、個人の成長こそが、組織全体の持続的な成長を支える柱となるのです。ぜひ、あなたの組織でも、この「事実ベースのコミュニケーション」を導入し、部下と組織の劇的な変化を体験してください。
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