字画も少なく、しょっちゅう⽬にする簡単な漢字。読めそうなのに、いざ声に出して読もうとすると、正しく読めるかどうか⼼配になって、思わず声を細めてしまう漢字ってありませんか? サライ世代ともなりますと、いったん思い込み認知をしておりますと、なかなかイニシャライズ(初期化)が難しいですよね。

簡単な漢字であっても、脳トレ漢字の記事を読みながら確認学習をしていただくことで、思い込み認知をイニシャライズできる機会になると思います。

「脳トレ漢字」第222回は、「肖る」をご紹介します。「削る」と見間違えてしまいそうですが、よく見ると違いますね。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。

「肖る」とは何とよむ?

「肖る」の読み方をご存知でしょうか? 「けずる」ではなく……

正解は……
「あやかる」です。

『小学館デジタル大辞泉』では、「影響を受けて同様の状態になる。感化されてそれと同じようになる。ふつう、よい状態になりたい意に用いられる。」と説明されています。「彼の幸運に肖りたいものだ。」「好きな芸能人に肖って、同じ服を購入した。」などのように使われる、「肖る」。

「影響を受けて変化する」「動揺する」という意味もあり、古典の世界では「疫病が流行する」という意味として使われることもあるそうです。

「肖」の漢字の成り立ちは?

「肖像画」という言葉にも使われている「肖」。この漢字は、人の体を意味する「月」と「小」という漢字で構成されており、「体が似ていて小さいこと」を意味しているそうです。それが転じて、「影響を受けて同じ状態になる」という意味になったと考えられます。

正岡子規と夏目漱石

朝晩は肌寒さも感じられるようになり、柿が旬を迎える季節となりました。柿といえば、「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」という正岡子規の俳句が有名ですが、この一句は夏目漱石の句に肖って詠まれたものであるといわれています。

日本の近代文学の発展に大きく貢献した、正岡子規と夏目漱石。学生時代に知り合った二人は、落語好きという共通点もあり、すぐに意気投合したそうです。

漱石が、子規について書いた人物論『正岡子規』の中では、真面目に授業を受けず、試験前に漱石に頼み込んで勉強を教えてもらったり、料亭で散財したりするエピソードが紹介されています。真面目で成績優秀だったとされる漱石とは正反対のようですが、互いに自分にはない魅力に惹かれていたのかもしれません。

明治28年(1895)8月、肺結核を患っていた子規は、愛媛県の松山に赴任していた漱石の下宿に招かれ、生活を共にするようになりました。その間、子規は地元の俳人らと交流するようになり、漱石が詠んだ句を添削することもあったそうです。

その折に、漱石の俳句が新聞に掲載されることとなりました。それが、「鐘つけば 銀杏(いちょう)散るなり 建長寺」という句です。子規の「柿くへば」の句はこの直後に詠まれたものであり、こうして見るとかなり似ているような気もしますね。

病が快方に向かい、漱石から借りたお金で奈良を観光していた際に詠んだとされる一句。子規はこの時、唯一無二の親友である漱石のことを考えていたのかもしれません。

***

いかがでしたか? 今回の「肖る」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 「漱石」というペンネームは元々子規が使っていたもので、友情の証として彼が譲ったといわれています。

互いの才能に触発され、素晴らしい作品を生み出した二人の関係は、誰も介入できないほど特別なものだったのではないでしょうか?

文/とよだまほ(京都メディアライン)
HP:https://kyotomedialine.com FB

参考資料/『デジタル大辞泉』(小学館)
『日本国語大辞典』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)

 

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