湯の郷には旨いものがある。自然の豊かな場所に古くから人が住み着き、山海の食材を用い、独自の食文化を形成してきたからだ。こんこんと湧く湯で体を休め、冬の美味を堪能したい。

どぶ汁発祥の地、平潟で鮟鱇と温泉三昧の贅沢
やすらぎの数奇屋民宿 やまに郷作 離れ ほまち庵

『やまに郷作』の「あんこう尽くしプラン」。手前から新鮮な鮟鱇の肝を使ったあん肝、身や弾力のある皮、胃などを煮凝りにして煎った肝と甘酢味噌につける共酢和え、鮟鱇の刺身の昆布〆。この他、どぶ汁、鮟鱇のから揚げなどがつく。どぶ汁の締めの雑炊も美味だ。

寒さが厳しくなるほどに肥えて、旨味の増す鮟鱇。「西のふぐ、東の鮟鱇」と称され、冬の訪れとともに鮟鱇を求めて産地を訪れる美食家は多い。特に春の産卵直前の1月~2月は、産卵を前にしっかりと栄養を蓄えて大きく育ち、最大の魅力ともいえる肝(きも)が肥大し、鮟鱇が最も旨くなる時期だ。

常磐沖の底引き網漁で獲られ、平潟漁港に水揚げされた地場のキアンコウ。30kgはある巨体だ。肝も大きく、旬の到来を告げる。

北は青森から西は下関まで、全国各地で水揚げされる鮟鱇は、捨てるところがない魚といわれる。各部位を投じた鮟鱇鍋を「どぶ汁」とも呼ぶ。この鍋の発祥の地とされる北茨城の平潟は、鮟鱇好きなら一度は訪れてみたい地だ。

平潟にある温泉民宿『やまに郷作』は、常磐沖で産する上質な地物鮟鱇尽くしの料理を供することで知られる。平潟漁港で水揚げされる鮟鱇を買い付けるが、平潟漁港では漁船の帰船が昼近くになり、セリも昼から行なわれる。そのため、日によってはまさに獲れたばかりの鮟鱇を捌いて夕餉(ゆうげ)に出すこともある。

鮟鱇の全てを食べ尽くす

柳肉と呼ばれる身や皮、とも(ヒレ)などを、煎った肝と味噌を溶いた出汁で煮込むどぶ汁。平潟の漁師料理として生まれた。

新鮮な鮟鱇だからこそできる刺身や、煎った鮟鱇の肝と味噌や砂糖で茹でた鮟鱇の身を和えた郷土料理の共酢和えなど、珍しい鮟鱇料理が並ぶ。なんといっても、新鮮な鮟鱇の肝で作るあん肝は、滑らかでコクがあり、滋味深い。極めつきは平潟の味、どぶ汁だ。この地方の古い言葉で「全て」を意味する「どぶ」からきているとも、肝を溶かした汁が濁っているからこの名があるともいわれる。丁寧に下処理をしたどぶ汁には臭みがなく、煎った肝を溶いた味噌仕立ての出汁に鮟鱇の魅力の全てが凝縮される。特に、ヌノと呼ばれる卵巣には体を温める効果があるといわれる。

鍋を堪能した後は源泉かけ流しの湯に浸かる。しっとりとした湯がさらに体を芯から温めてくれる。漁師町での冬の贅沢なひとときだ。

離れ「ほまち庵」の信楽焼客室半露天風呂。ナトリウム・カルシウム泉の源泉かけ流し。しっとりとした柔らかい湯だ。
『やまに郷作』の離れ「ほまち庵」は1日ひと組限定。壁には幕末に水戸藩改革に尽力した水戸藩士・藤田東湖の書が掲げられている。

やすらぎの数奇屋民宿 やまに郷作 離れ ほまち庵

鮟鱇はじめ地場の魚料理が自慢の温泉民宿。「ほまち庵」(定員4名)は源泉かけ流し。 

茨城県北茨城市平潟町273
電話:0293・46・1178
料金:2名利用で1泊2食付きひとり2万8750円~(税・サ・入湯税込み)
チェックイン15時、同アウト10時
泉質:ナトリウム・カルシウム泉
交通:JR大津港駅より車で約5分(5名以上であれば事前申し込みで電車到着時間に合わせて送迎バスあり)

取材・文/平松温子 撮影/安田仁志

※この記事は『サライ』本誌2023年12月号より転載しました。

『サライ』12月号特別付録は『2024年日本美術“吉祥”「辰年」カレンダー』

 

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