
たとえその地に行けなかったとしても、世界遺産の風景を楽しんだり、思いを巡らせたりするのは楽しいものです。とはいえ、円熟味を増したサライ世代にもなると、世界遺産について最低限の知識は身に付けておきたいもの。
そんなときに役立つのが、宮澤光監修『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』(日本文芸社)です。いわゆる観光ガイドではなく、代表的な世界遺産について歴史的な成り立ちや登録にいたった背景などを分かりやすく解き明かしてくれます。
今回は、『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』(日本文芸社)より、「カナイマ国立公園」&「アルベロベッロのトゥルッリ」を取り上げます。
地の果てのロスト・ワールド? カナイマ国立公園

「カナイマ国立公園」があるのは、南米ベネズエラ南東部のギアナ高地に広がる、熱帯雨林と草原に覆われた約300万ヘクタールの広大な自然保護区です。断崖が連なる特異な地形と、手つかずの森が広く残ることから、人類未踏の地が多く「最後の秘境」とも呼ばれています。
公園の約65% を占めるのは、先住民から「テプイ」と呼ばれる標高2000m以上のテーブルマウンテン(卓状台地)です。およそ17億年前の先カンブリア時代に形成された岩盤が、長年の風雨で削られ、硬い部分が卓状に残ったものです。公園内に100以上ある山々の山頂部は周囲から隔絶され、固有種を含む独自の生態系を育んできました。
そのため、山ごとに異なる自然環境が見られる点も特徴です。
公園内最高峰となる標高2810mのロライマ山は、コナン・ドイルがSF小説『ロスト・ワールド』の着想を得た場所ともいわれています。他にも映画やゲームなど創作の舞台にたびたび選ばれてきたのは、この場所が地球の歴史と未知の自然を同時に感じさせる場所だからかもしれません。壮大な地形と固有の生態系が織りなす景観は、地球の歴史と生命の多様性を今に伝えています。
【DATE】カナイマ国立公園
保有国:ベネズエラ・ボリバル共和国
登録年:1994年
登録基準:自然美や景観美、独特な自然現象を示す遺産/地球の歴史の主要段階を示す遺産/動植物の進化や発展の過程、独自の生態系を示す遺産/絶滅危惧種の生息域でもある、生物多様性を示す遺産
【認定ポイント】プレート変動の影響を受けなかった「空中の島」
公園一帯は、かつて五大陸が誕生したプレート変動の際、変動軸の上にあったため、ほとんど影響を受けなかったと考えられています。そのため、約17億年前の地層がそのまま残り、絶壁のテーブルマウンテンの頂上は隔絶されました。頂上では食虫植物ヘリアンフォラや、泳ぐことのできないカエルの仲間オリオフリネラなど、独自に進化した動植物が見られます。
水が霧になる!? 滝壺が存在しない滝
カナイマ国立公園内にあるテプイのひとつ、アウヤンテプイ山には、世界最大の落差で知られるアンヘルの滝、通称「エンジェル・フォール」があります。この名称は発見者であるアメリカの探検家ジミー・エンジェルに由来します。落差は979mにも達し、落下中に水が霧状に砕けて風に流されたり、蒸発したりすることで滝壺が存在しないのが特徴です。
アルベロベッロのトゥルッリ とんがり屋根は生存戦略?

イタリア南部プーリア州にあるアルベロベッロには、白い漆喰の壁と円錐形の石屋根を持つ住宅「トゥルッリ」が立ち並びます。ひとつの部屋にひとつの円錐状の屋根が付く建物「トゥルッロ」がいくつか集まって、複数形の呼び名「トゥルッリ」となります。旧市街には現在も1500軒以上のトゥルッリがあり、その多くが住居やレストラン、宿泊施設として使われ、伝統的な景色が受け継がれています。
この地方では、先史時代から石灰石を積み上げた建築技法が発展してきました。雨が少なく水源に乏しい上、石灰岩の大地には強い日差しが照り付けます。この地に入植した人々が、そうした過酷な環境に適応する中で生み出したのがトゥルッリです。薄く切り出した石灰石をモルタルを使わずに積み上げ、外側を漆喰で白く塗り固めた構造です。
二重に積み上げられた壁の隙間には、小石を詰めるなどして厚い壁が外気を遮り、室温を一定に保ちやすくしています。
また、雨水は屋根を伝って地下の貯水槽に溜められ、川や池が近くにない開拓地での生活を支えました。特徴的な円錐形の屋根には、そうした開拓者たちの知恵と工夫が詰まっています。
【DATE】アルベロベッロのトゥルッリ
保有国:イタリア共和国
登録年:1996年
登録基準:文化的伝統や文明の存在に関する証拠を示す遺産/建築様式や建築技術、科学技術の発展段階を示す遺産/独自の伝統的集落や、人類と環境の交流を示す遺産
簡素な造りは税金逃れのため?
この地方では当時、「家屋の数」に応じて税金が課される制度があったと伝えられています。そこで領主は、国王に
納める税を減らすため、徴税人が視察に来ると知ると、領民に命じて課税対象となる家を一時的に取り壊させたの
だとか。家の数を減らして申告するための、強引な節税(というより脱税)策だったといわれています。やがて領
主の支配から逃れるため、領民たちは王領地(国王の直轄地)になることを願い出たとされます。こうして領主のも
とから解放されると、トゥルッリは新たに建てられなくなりました。
雨を集める屋根が暮らしを支えた
円錐形の石積み屋根は、雨を集める器のような役割を果たすのが特徴です。降った雨は屋根の勾配に沿って流れ、
溝などを通って家の下に掘られた地下の貯水槽へ導かれます。こうした工夫が、川や池などが少ない厳しい土地で
も生活用水を確保しやすくし、開拓地の暮らしを支えました。
* * *

眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産
監修/宮澤光
日本文芸社 1,089円(税込)
宮澤光(みやざわ・ひかる)
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員。北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。跡見学園女子大学非常勤講師。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、『チコちゃんに叱られる!』(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
※『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』(日本文芸社)より、一部を抜粋してご紹介しています。
写真/写真AC











