全国旅行支援が実施され、旅に出たい気持ちが高まっているのではないでしょうか。
冬の旅といえば、やはり温泉。そこで、『一生に一度は行きたい温泉100選』(宝島社)から、大自然の中、絶景を見ながら楽しめる温泉をご紹介します。思い出に残る温泉旅に出かけてみませんか。
監修/石川理夫(日本温泉地域学会会長)
青森県深浦町「黄金崎不老ふ死温泉」
この温泉は、サンセットの美しさで知られる西津軽の海岸にある一軒宿。
創業は昭和47年とそう古くはないが、日本海の岩礁上に設けられた絶景露天風呂が人気を呼び、いまでは立派なリゾートホテルタイプの新館も建ち、青森県を代表する人気の温泉宿になっている。
名物の海辺の露天風呂は、宿から海辺に降りて少し歩いた岩礁上にある。湯船は混浴と女性専用の2つ。この茶褐色の湯に浸かりながら、日本海に沈む夕日を眺めるサンセットの時間は息を飲むほどに美しい。
海が荒れる冬場は湯船に荒波が流入し、アプローチも強風なので露天風呂に近づくこともできないが、新館には海にせり出すような展望露天風呂があり、そこからの眺望も見事である。
長野県小諸市「高峰温泉」
高峰温泉は小諸(こもろ)市北郊、浅間(あさま)山の西に連なる標高約2000mの稜線上に建つ一軒宿の温泉。
長野と群馬の県境に位置し、夏は高山植物の宝庫といわれる高峰高原の一角にある。高峰温泉は館主の「自然との共生」を目指す信念と活動が素晴らしく、星空観望会や池の平湿原での自然観察会、高峰山や黒斑(くろふ)山へのハイキング、冬はスノーシュートレッキングなど、スタッフの案内付きの催しが多彩。
そして自慢は宿泊棟から一段高い稜線上に設けられた展望野天風呂(宿泊専用)。男女とも定員4名の小ぶりな湯船だが、そこから望む大展望はまさに感動的。小諸の街を飲み込んだ雲海の向こうには蓼科(たてしな)や美ヶ原、中央アルプスや御嶽山(おんたけさん)、北アルプスまで姿を見せ、絶句して眺めるばかりだ。
東京都八丈町八丈島末吉「温泉 みはらしの湯」
八丈富士と三原山という2つの火山が接合し、ひょうたん型となった八丈島。温泉が湧くのは三原山の南側一帯。現在5か所の源泉井戸(泉源)が点在している。
なかでもアイランダー憧れの湯が末吉温泉。右手には火山島ならではの切り立った大岩壁。その先に八丈島最南端の小岩戸ヶ鼻が突き出している。
海は深いブルー。凪いだ日にはちりめんのようなさざ波がキラキラと輝いて見える。が、荒れた日には一転、白波が海を覆い尽くす。ずっと眺めていたくなる景色だが、強塩泉という湯質のため長湯はできない。休み休みしながらの入浴がおすすめだ。
近年12月から3月にかけてザトウクジラがたびたび目撃されており、クジラの見える絶景温泉としても知られるようになってきた。
* * *
『一生に一度は行きたい温泉100選』(石川理夫 監修)
宝島社
石川理夫(いしかわ・みちお)
温泉評論家。日本温泉地域学会会長。日本における温泉評論の草分けとして、国内外の温泉地取材をもとに執筆・講演活動のみならず、温泉地及び共同湯の歴史や温泉文化論の研究に携わる。著書に『温泉の平和と戦争』(彩流社)、『本物の名湯ベスト100』(講談社現代新書)、『温泉の日本史』(中公新書)など多数。