小学館グループの自費出版部門である株式会社小学館スクウェアで、この度、撮りためた写真や絵、文章などを手軽に本にする、“「自分だけの一冊」ビジュアルブックシリーズ”という新企画を始めたという。
どんなものなのか、同社の大家正治社長に聞いた。
サライ 自費出版というと、何年か前から自分史作りがブームだといわれてますが、その傾向は続いているのですか?
大家 昨年来のコロナ禍で家にいる時間が多くなって、その間に自分を見つめ直して自分史を書く方もいらっしゃいますが、最近は、ファンタジー小説や絵本を書いたので本にしたいという方が増えていますね。閉塞感のある現実から脱出して、夢のある世界へ思いを馳せたいのだと思います。
サライ 子どものころから創作意欲がある方が、年齢を重ねてからあらためて小説や絵本を書き始めて、それで賞を取ることもよくありますね。
大家 ヒットを狙っている方ももちろんいらっしゃいますが、それよりも自費出版というのは美しい装丁、満足いく造本といった、本作りの楽しさを求める趣味の世界だと私は思います。陶芸や盆栽のような優雅なモノ作りに近い。
サライ 商業出版みたいにコストの制約がなければ、なるべく凝った、豪華な本にしたくなるでしょうね。
大家 そう。開高健さんが本物の鮭の皮を表紙にした本を作ったみたいに。ただ細部にこだわって作ると制作部数は少なくてもそれなりのお金がかかります。
功なり名を遂げた方が、銅像を作るか本を出すか…いまでもそういう立派な方からのオーダーがあります。しかし一方で、古い写真アルバムやパソコンやスマホに溜まった写真データを整理している方が、これをなんとかカタチにして残しておけないだろうかという、もっとカジュアルな本作りのニーズが増えてきました。
でもこの世界のライバルは、街のプリントサービスやらスマホアプリやらいっぱいあります。それでも、AIが作っている本は「愛」がないのでしょうか、あまり魅力的な仕上がりではありません。
そこで、プロの編集者の編集力で作ったらどうなるか、それが今回のシリーズなのです。
サライ それで大家さんが自分で試しに一冊作ってみたと聞いています。
大家 私は渓流のフライフィッシングが昔からの趣味で、写真や雑文がパソコンの中にたくさん眠っていたので、これを文庫判の本にしてみました。
ただ、あまりにも個人的な写真や文章なので、「市販して自分の主張を世に問おう」とは思っていません。制作部数も、身内や釣り仲間に読んでもらいたいだけなので、20冊もあれば十分かなと。
そう考えると、今はいわゆるプリント・オンデマンドというデジタル印刷方式があって、1冊からでも作れるのですね。しかも昔と違って技術革新は目覚ましく、風合いのある特殊な紙にも印刷可能だし、いかにも「カラーコピーです」といったギトギトした感じも無くなってきています。
サライ この文庫はコロコロしていてカワイイ感じですね。
大家 組版ソフトを駆使して、パソコン画面上で写真や文章のページが出来上がっていく工程も楽しかったですし、校正紙が出てきて、束見本を作り、やっと文庫というカタチになって本が完成した時には感動しましたね。
まさに「自分だけの一冊」で、今でも何度も手に取っては、ニヤニヤしています。表紙を触ったり、背を撫でたり、紙の匂いを嗅いだりすると、パソコンの中に埋もれていた写真や文章が生まれ変わったようにいきいきしてくるのです。
文庫サイズだから手軽に旅に持って行って、梅の花びらと一緒にならべて撮ったり、海辺の夕日を背景にしてみたり、それこそ、それで一冊の写真集ができるぐらい、この本の記念撮影をしました。
サライ そこまでやりますか。
大家 なので、このシリーズのキャッチフレーズは、“RIDES, CAEPA CIRRATA”。ラテン語で「ニヤニヤする」っていう意味なのです。本を手にした著者が一人ニヤニヤと悦に入る様子を、この言葉に込めました。
サライ 具体的なオーダーの仕方はどうしたら良いのですか?
大家 まずは株式会社小学館スクウェアの「ビジュアルブックシリーズ」係までご連絡下さい。
ただし古いアルバムを山ほど持ち込んで来られても、狭い会社なので場所に困ってしまいます。できればデータ化した写真を拝見できると嬉しいですね。
写真を見ながら編集者と相談して作るというやり方もできますし、ある程度ご自身で絞り込んでもらった中から、私どもでセレクトして、構成を考えることも可能です。
自分で選ぶと同じような写真ばかり選んでしまう傾向にありますが、第三者の目が入ることでバラエティが増え、メリハリが出てくる場合もあります。
この文庫も、私の3000枚の紙焼き写真と4000点の写真データを担当スタッフに渡して、写真構成をしてもらいました。
その中には、絶対に自分では選ばないような写真が何点も取り上げられたりしていて、新鮮な気がしましたね。
写真のセレクトと、順番や配置、そしてトリミングが、このビジュアルブックシリーズの肝で、造本とともに弊社の編集力だと自負しています。
また弊社には写真事業部という撮影部隊もありますので、描きためた絵画やイラストをスタジオで複写して、データ化することも可能です。そうしたデータをもとにした作品集作りのご要望も受け付けております。
株式会社小学館スクウェア「自分だけの一冊」ビジュアルブックシリーズ
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