文/印南敦史
なんらかの理由で体調がすぐれないとき、「内臓疲労だろうか?」と感じることがあるのではないだろうか? そういう意味では、“内臓疲労”はなにかと馴染みのあることばなのかもしれない。
ところが『医師が教える内臓疲労回復』(松尾伊津香 著、中田航太郎 監修、クロスメディア・パブリッシング)の著者によれば、“内臓疲労”に医学的な定義はなく、医療機関では使われないのだそうだ。
そこで本書では、このことばが指している感覚を次のように解釈している。
(1)内臓の不調
(2)内臓の不調による全身の疲労感(本書「はじめに」より引用)
まず(1)は、たとえば胃の消火機能が低下して胃もたれが起きる、腸の排便機能が低下して便秘や下痢が起きるなど。つまり内臓自体の機能が低下し、なんらかの「症状」として認識されるもの。
対する(2)は、(1)のような不調に伴い、全身のだるさや倦怠感を覚え、漠然とした「疲れ」として認識されるような状態を指す。
医学的な定義ではないものの、どちらも私たちの日常のなかで悩みとして現れているもの。その点を踏まえ、この両面から調査を進めたのだという、
著者は、疲労回復専用ジム「ZERO GYM」を運営するプロボディデザイナー。監修者は総合内科医である。つまりここでは両者のノウハウを活かしながら内臓疲労の本質に迫り、その対策を講じているのである、
「脳疲労対策」「胃腸疲労対策」「肝臓疲労対策」など視野も広いため、自身の内蔵疲労の原因を的確につかむことができそうだ。
今回はそのなかから、ムカムカ、モヤモヤとした「胃のもたれ」をクローズアップしてみることにしよう。
胃もたれは、摂取したものに対して胃の“溶かす働き”が追いつかず、ものが胃に長く溜まってしまっているために起こるもの。大勢の来訪者に対し、門番がキャパオーバーになっているような状態だ。
では、なぜ胃がもたれてしまうのだろうか?
主な原因はずばり食べすぎ・飲みすぎ。一度に大量に食べすぎたら、胃が本来もつ機能で処理しきれなくなるのも当然だ。よく噛まずに急いでかきこんだりするのも、咀嚼による消火作業が減っているぶん、胃液で溶かすのに時間がかかり、胃もたれの原因になる。(本書96〜97ページより引用)
なお、もし暴飲暴食しているつもりはないのによく胃がもたれるのだとしたら、胃の“溶かす働き”が鈍ってしまっている可能性もある。胃酸の分泌をはじめ、「食べ物が入ってきたら、ふくらむ」「食べ物を揉み込む」といった胃の働きは、自律神経がコントロールしているからだ。
自律神経は精神的ストレスや生活習慣などで乱れてしまうため、食べ物が入ってきても胃が十分に膨らまず、すぐにお腹が張って苦しくなってしまうというわけだ。
また消化液の分泌や蠕動運動が十分に行われなければ、食べ物が腸へと出ていかずに長くとどまり、胃もたれが起きる。さらにストレスが加わると、胃のセンサーが敏感になって症状を強く感じてしまうというのだ。
とくに気をつけたいのが、脂もの。たしかに揚げ物や肉料理など、脂っぽいものを食べたあとに胃がムカムカして気持ち悪くなってしまうことは少なくない。
普段、胃がもたれることはないという方でも、脂ものを食べすぎたあとには多少なりとも不快感を感じることはあるはずだ。
だが、なぜ脂ものは持たれやすいのだろうか?
原因は「脂肪の性質」にある。実は脂肪は、胃の消化液では消化できないというのである。
胃に送り込まれた脂肪は、そのまま小腸の一部である「十二指腸」に送られる。そして、脂肪を消化するための強力な消化液「膵液・胆汁」で消化され、小腸の各部位で吸収されていく。なお膵液は膵臓で、胆汁は肝臓で生成される。
十二指腸に脂肪が入ると、その消化吸収を促進するホルモンが放出される。このホルモンには、同時に胃の働きを抑えてしまう働きがある。消化されにくい脂肪という厄介者が一気に腸に流れ込んでこないように、胃にブレーキをかけるのだ。(本書98ページより引用)
すなわち胃に対して腸が“ダメ出し”し、ストップモーションをかけているということである。
ところで、昔は平気だったにもかかわらず、「いつの間にか、焼肉やラーメンなど脂っこいものを食べると、胃の具合が悪くなるようになっていた」という方もいらっしゃるだろう。だとすれば、それは加齢のせいかもしれない。
胃の消化液である胃液の分泌量は、年齢とともに減ってくる。胃液と食べ物を揉み合わせたり、腸へと送り込んでいく運動もまた、加齢によって弱くなる。さらには膵臓や肝臓も加齢に伴って機能が低下するため、脂肪を消化吸収する膵液・胆汁の分泌量も減少する。
これが、“年をとると脂ものが食べられなくなる”原因だ。つまり、ある程度の機能低下については諦めるしかない。なにしろ、加齢には抗えないのだから。
とはいえ、食べ方を工夫して対処していくことは可能。胃もたれを防ぐには、脂ものはとくに、一度に大量に食べるのではなく、適量をよく噛んで味わって食べるのがいいようだ。
そんな“当たり前のこと”の重要性が、加齢とともに高まっていくということなのだろう。
『医師が教える内臓疲労回復』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。