福井の越前和紙、岐阜の美濃和紙と並ぶ日本三大和紙のひとつ、高知の土佐和紙。その歴史は千年以上前に遡る。現存する最古の記録は、平安時代の延長5年(927)に完成した『延喜式』の記述で、国に紙を納めた主要産地国として土佐の名が登場する。
この地で製紙業が発達した最大の理由は、良質な原材料と清らかな水に恵まれていたからだ。中でも清流・仁淀川流域にある、いの町付近で栽培された土佐楮は、繊維が長く絡みやすいため、薄くても丈夫な紙が漉けると、早くから全国にその名が知られていた。土佐和紙を代表する土佐典具帖紙は、その特徴を最大限に活かした紙で、別称は“蜻蛉の羽”。透けるほど薄く、かつ粘り強さを備えており、日本だけでなく世界中の文化財の修復に使われている。
幻想的な唯一無二の掛け軸
掛け軸は、いの町で100年以上続く「田村和紙工房」の3代目、田村晴彦さん(73歳)の作品「夢幻染掛軸」。田村さんは、図引き紙や美術紙を作る傍かたわら、20代の頃から和紙に刷毛で着色した作品を創作し、多数の賞を受賞。平成10年には「土佐の匠」にも認定されている。還暦を迎えたのを機に、現在は自らの創作活動に専念している。「歳を重ねるにつれ、色合いが落ち着いてきました」と語る田村さんが生み出す作品は、繊細でありながら温かく穏やか。何度見ても飽きない幽玄なる世界を創出している。
【今日の逸品】
土佐和紙の夢幻染掛軸
田村和紙工房
38,500円(消費税込み)