ミルクを飲んでお腹いっぱいの保護子猫(Boni’s House)。

閑静な住宅街の戸建て。一見すると普通の住宅のようだが、リビングスペースが猫カフェになっており、グッズを収納する棚などの他に、まだ独り立ちできない子猫たちが生活するケージが並べられている。訪問時はちょうど、お昼ご飯を済ませた後らしく、みんなお腹いっぱいになってすやすや眠っていた。ざっと数えたところ、20匹ほど。

貫録あるおとな猫たちは、自由にスペース内をうろうろしたり、棚の隙間に納まって寝ていたり。テーブルでは、数人の女性たちが談笑しながら裁縫をしている。女性たちが作業をするテーブルのど真ん中には、大きな猫がでんと横たわり、時々撫でてもらいながらまどろんでいる。

ここは、北多摩にある個人が運営する保護猫カフェ。

保護猫カフェとは、野良猫や捨て猫、飼育放棄された猫、保健所などに持ち込まれた猫、虐待を受けていた猫などのずっとの家族を探すために、客と触れ合いながら過ごす場所を提供するカフェ。利用客が里親になるケースもあれば、猫が好きだけれど飼えない環境にある人などが、客として訪れることもある。

「ボニータさん」こと古橋典子さんが保護猫カフェBoni’s Houseを始めたのは、2017年。

「カフェを開く以前から、猫の保護活動に関わったり、子猫のミルクボランティアをしたりしていたんです。我が家の飼い猫もみんな保護猫たちです」

東日本大震災の後に、被災地の猫たちの預かりボランティアを手伝っているという知人の話を聞いて、自分もやってみようと思った古橋さん。

「最初は様子見で成猫1匹の預かりを始め、慣れていくにつれ数が増えていきました」

その後、若い頃に猫の乳幼児のお世話をした経験もあった古橋さんは、乳幼児のボランティアにも名乗りをあげた。

「今は猫の保護活動をしている方々の努力もあって状況がだいぶ変わってきていますが、以前は授乳や細やかなケアが必要な乳幼児の猫は、保健所に持ち込まれると殺処分されることになっていたんです。夜でも2時間おきにミルクを与えないといけないけど、保健所で働く職員さんが夜通し働くわけにもいきませんから」

今ではほぼ子猫中心になっていて、特に体調が芳しくない子などは古橋さんに任せれば安心といわれるまで、信頼されている。

愛おしそうに子猫のお世話をする古橋さん。

一度は病を克服して始めた猫の預かりボランティア

そんな古橋さんが保護猫カフェを開いたのには、深い事情があった。

12年ほど前、古橋さんにがんが発覚。医師からは再発率が高いといわれた。以前飼っていた愛猫が亡くなってペットロスを抱えたまま、このまま猫と一緒に暮らすことももうないのだろうと思っていたという。

しばらく闘病生活が続いた。再発するとしたら2年以内といわれたが、5年経っても再発はなく、さらに3年が過ぎた。

「お医者さんにも、逃げ切ったねっていわれました」

また猫と暮らしたいという思いがあったことと、自分の体調に自信が持てるようになったところで、預かりボランティアを始めることにした。

ところが、預かりボランティアを始めて2年ほど経ったころ、それまで沈黙を保っていたがんが、8年目にして再発してしまったのだ。そこから再び、闘病生活が始まった。

「しばらくつらい治療を受けていましたが、それが終わって、自宅で飲み薬だけになった頃、もういつまで生きられるかわからないから、好きなことをしよう、って決めたんです」

どうせなら大好きな猫たちのためになることをしたい。そう思った古橋さんは、家族に、「保護猫カフェを始める、リビングは店舗にしますから」と宣言。古橋さんの思いを察した家族も、快く協力してくれた。

それまで協力体制にあった保護団体も保護猫カフェの開業に当たってアドバイスをくれたり、協力をしてくれたという。古橋さんに万が一のことがあれば、保護猫たちは手分けして仲間たちがお世話をしてくれることになった。

保護猫カフェを支える「部会」

裁縫部の部活動中。テーブルのど真ん中でくつろぐ(邪魔をする?)のは古橋さんの飼い猫で元保護猫のルカくん。(猫たちの安全に配慮して作業をしています)

こうして、2017年に保護猫カフェBoni’s Houseがオープンした。店名は、古橋さんが若い頃に飼っていた忘れられない愛猫ボニータからとった。

「オープン前から考えていたことなんですが、寄付を募って運営するのではなく、商品を売って、その売り上げで保護猫たちのお世話の費用に充てようと決めていました」

もともとポーチやバッグなどのハンドメイド作りが趣味だった古橋さん。ハンドメイド作りをしていると、売ったりプレゼントしたりしても作った作品がたまってしまうのを知っていたため、自身のブログで、行き場がなくなっているグッズを募ることにした。それを販売して、売り上げを保護猫カフェ運営にあてた。

そうしているうちに、保護猫たちのためにといって自分から作ってくれる人たちが増えていった。さらに、ハンドメイドをやってみたい人や、以前はやっていたけど今は場所がないという人などもいて、Boni’s Houseの一角で、みんなで集まって、猫グッズを作るようになった。古橋さんたちがBoni’sチームと呼ぶ仲間たちによる、「裁縫部」の誕生だ。

パッチワークを教えることができる里親さんがいたため、裁縫部から派生して「パッチワーク部」もできた。布地を寄付してくれる人たちもおり、そうした大切な布の端切れも無駄にしないためのパッチワークだ。 ラッピング部もあるし、受注、発送、会計をしてくれる人もいる。こうした部会や個々のボランティアさんたちが、 Boni’s Houseの屋台骨になっている。

「どんな商品がいいかなと相談すると、みんないろんなアイディアを出してくれるんです。アイディアを出した人が試作品を作って、それをみんなで検討して、一緒に作って、Boni’s Houseの商品として売っています」

Boni’s Houseの商品がどれも、猫が楽しめ、見た目も良く、安全性に配慮して作られている。その上、ボランティアのチームで作っているため、低価格だ。

「保護猫グッズだから買うんじゃなくて、Boni’s Houseの商品がクオリティが高くて好きだから買ってもらえているということに、誇りを持っています。おかげさまで、商品を購入されるお客さんの半数以上はリピーターさんなんです」

ボランティアといっても様々な形があると、古橋さんはいう。実際に猫を預かってお世話をする人もいれば、お金を寄付する人もいる。こうやってグッズを作ってくれることもまた、ボランティアなのだ。

「モットーは、楽しくやること。決して稼げる仕事ではないから、楽しくやりたいじゃないですか。同じ思いの人が集まって、Boni’sチームが成り立っています。今は乳飲み子を含め20匹以上がいますが、Boni’sチームのおかげで資金面でもやりくりできています」

そうこうするうちに、奇跡が起こった。古橋さんの病状がなくなったのだ。もちろん、油断していいわけではないが、すっかり元気になった古橋さんはいう。

「自分でできる範囲のことをしたいと思っています。決して無理はしない。今は私と家族が猫たちのお世話をして、ここに集まってくれるBoni’sチームのみんなに裁縫などをしてもらっていますけど、本当は私も裁縫部に参加したくてうずうずしてるんです」

折しも新型コロナウィルス感染症拡大で店を閉めている今、カフェ運営の方向性も今後は変えていくことを検討しているという。運営の仕方を変えることによって余裕が生じたら、投薬の影響で指先がうまく使えなかったりして遠慮していたグッズ作りに参戦したいそう。

どんな状況に置いても変わらない猫愛と、前向きな姿勢が、今の古橋さんの元気の源泉になっているのかもしれない。これもまた、猫とともに生きるひとつの形だ。

おうちが決まるまで、Boni’s Houseで暮らす子猫たち。早く里親さんが決まるといいね!

Boni’s House
https://bonis-house.amebaownd.com/
(新型コロナウィルス感染症拡大を予防するため、現在はカフェ部門は閉店中。譲渡活動やグッズ販売、部会などは行なっている)

文/一乗谷かおり

 

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