ブラック企業にならないために必要な「アンガーマネジメント」とは何か?

ブラック企業と一概に言っても、過重労働だけではなく、上司のパワハラなどもブラック企業と呼ばれる原因になりうる。

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近年、ブラック企業という言葉が流行り出してからというもの、労働環境や上司のマネジメント力への目はシビアになる一方です。部下がうつ病になろうものならすぐさま会社や直属の上司の管理責任が取りざたされ、今までうまく回っていたマネジメント方法を変えることを余儀なくされる管理職も多いのではないでしょうか。

そんな中、注目を浴びているのが「アンガーマネジメント」です。

日本アンガーマネジメント協会によると、人の意思決定や行動は感情、特に強い感情である怒りによって大きく左右されると言われています。怒りに振り回されてしまうと、それだけ組織内にピリピリとした空気が流れるようになり、生産性が下がっていってしまうのです。

現代では、その考え方は企業研修という形でビジネスの場にも取り入れられるようになりました。また、アンガーマネジメントはメディアでも多く取り上げられる等、注目を浴びる機会も増えてきています。

この記事では、現代日本のビジネスシーンにおいて需要が増す一方である「アンガーマネジメント」について、その必要性や実践例について見ていきます。

アンガーマネジメントとは何か

そもそも、アンガーマネジメントとは何なのでしょうか。

何となくテレビやニュースで耳にするようになって、ぼんやりと「怒るのを止めること」だと理解している方もいるかも知れませんが、それは間違いです。

正しいアンガーマネジメントとは、日本アンガーマネジメント協会によると「怒らないことを目的とするのではなく、怒る必要のあることは上手に怒れ、怒る必要のないことは怒らなくて済むようになること」を目標とした心理トレーニングであるとされています。

つまり、上手に怒りの感情を発散させることによって、イライラをため込むことなく、相手を委縮させることなく円滑なコミュニケーションを維持する為のものなのです。

一般社団法人アンガーマネジメントジャパンによると、アンガーマネジメントは「まず自分の気持ちに気づき整理することで(自己理解)、他者の気持ちも理解できるようになり(他者理解)、お互いを理解し(相互理解)、その場にふさわしい方法で自分の気持ちを表現する対人関係に必要な技法」とされています。

このような特徴から、アンガーマネジメントは教育から医療・福祉、一般企業に至るまで幅広く用いられるようになり、その需要は年々右肩上がりの一方を辿っているのです。

企業におけるアンガーマネジメントの需要が高まっている背景には、上司の叱責はパワハラであり、それが原因で部下がうつ病などの疾患を発症した場合、企業や上司が責任を追及されかねないという世の中になってきているからです。

また、日本アンガーマネジメント協会によると、フロリダ州立大学の調査では、威圧的な上司の元で働く部下は、そうでない上司の元で働く部下よりも、業務に全力を出さない割合が24%も高いという研究結果も出ているとのことです。

今、管理職には怒りをぶつける以外の方法で部下をコントロールし、全体のモチベーションや生産性を挙げていく術が求められているのです。

何故叱責で部下のモチベーションが下がるのか

何故現代の日本においてアンガーマネジメントの需要が高まっているのか。それは、先ほど述べた通り叱責がパワハラとして訴えられかねない時代が来ているからです。

では、訴訟リスクさえ回避出来れば叱責を用いて良いかというとそれも異なります。叱責は、部下のモチベーションや生産性を下げてしまいかねないということが明らかになって来ているからです。

そのメカニズムは単純で、叱責を受けた時、人は怒られた理由ではなく「怒られたということ」に目が向いてしまう生き物からです。何かミスをして人から叱責を受けることになった時、その叱責が厳しいものであればある程、ミスをした人の記憶には「ミスをしたこと」ではなく「叱責を受けたこと」が強く刻まれて行くことになります。

そうなってしまうと、その後の部下の脳内は「叱責されない為にはどうしたらいいか」という回避的な思考に集中することとなります。上司に叱責されるかも知れないという不安や恐怖で思考が圧迫された状態と、そんなことは気にせずのびのびと働ける状態、どちらの方が自由な発想で十全の能力を発揮できるかは考えるまでもありませんよね。

更に、叱責に対する不安や恐怖は、度重なる叱責によってどんどん強くなっていき、最終的には会社や上司そのものへの嫌悪感や忌避感、「ミスをしてもバレなければ叱責を受けずに済む」という隠ぺい体質に繋がってしまいかねないのです。

叱責には、一時的に相手のミスなどの不適切な行動を抑制する効果があることは事実です。しかし、それは相手の思考に叱責への恐怖という楔を打ち込むような行為であり、打ち込まれた楔の数が増えれば増える程相手の思考や視野がどんどん狭まっていく一方で、結果としてモチベーションやパフォーマンスまで同時に落としてしまうことに繋がってしまうのです。

アンガーマネジメントの実例

それでは、実際にアンガーマネジメントを実践することで部下のモチベーションや意識はどのように変わっていくのでしょうか。

Aさんは、20代後半と若手ながらダントツの成績を上げ続けてチームを任されることとなった営業マンです。Aさんは、他のリーダーより若いということで自分が任されたチームメンバーを引っ張って行けるか、他の営業チームに下に見られはしないかということに頭を悩ませていました。

その焦りから、Aさんはそれまで以上に身を粉にしてがむしゃらに働き、部下にも同じだけの場数を踏ませようとどんどん仕事を振るようになりました。しかし、部下たちはAさんから見たら気が抜けているとしか思えない程仕事が遅かったのです。そんな部下たちの姿を見る度にAさんは足を引っ張られているような感覚に襲われ、カッとなって厳しい叱責を飛ばすというのが日常となってしまいました。

始めの頃はその厳しい叱責に応えるかのように、Aさんのペースに追い付こうと必死に食らい付いてきてくれた部下たちでしたが、次第に明らかに疲労が見て取れるようになり、ミスも増えていきます。段々とチーム全体が重苦しい空気に包まれ、部下たちはAさんの表情を伺うことに必死になり、落ちていく業績をAさんの個人成績で必死に立て直し、Aさんの叱責は激しくなる一方という悪循環に陥ってしまったのです。

そんな状況を見かねた上司が、Aさんに勧めたのがアンガーマネジメントでした。

アンガーマネジメントでAさんが学んだことは、大きく分けて以下の4つです。

・怒りのメカニズム
・自分の怒りの原因
・自分の感情や思考を整理すること
・相手への伝え方

Aさんはこれらのことを学んでいくうちに、自分が部下に感じていた怒りは、本当は自分自身が圧倒的な速さで昇進したことに対するプレッシャーや焦りが根本の原因であったことに気付きました。そして、自分自身がその焦りによって視野が狭まっていたのと同じように、自分の叱責によって部下たちの視野まで狭めてしまっていたことにも気付けたのです。

それからのAさんは、部下がミスをした際に沸き起こる自分の感情について、衝動的に行動する前に一度冷静になって考えるようになりました。

・今何故自分は怒りを感じたのか
・その怒りはどの程度か
・相手に伝えなければいけないことは何か
・それをどう伝えるか

このようなことを整理してから部下に指示を飛ばすようになったことで、部下もきちんとAさんの言葉を受け止め理解できるようになり、チーム全体の空気も明るく和気あいあいとしたものへと変わっていきました。そして、チームの業績も少しずつ上がっていくようになったのです。

アンガーマネジメントの実践法

アンガーマネジメントを実践する上で一番大切なのは、怒りを感じてから6秒間をどうやり過ごすかということです。

カッと頭に血が上がったら、まずは心の中で6秒数えてみましょう。

よく瞬間湯沸かし器に例えられるような怒りの感情のピークは、長くて6秒と言われています。その6秒間をやり過ごすことさえできれば怒りは少し収まり、冷静な思考を取り戻すことができるのです。

最初の6秒をやり過ごすことに成功したのであれば、次は怒りを一度自分から切り離し、何故怒りを感じたのか、感じた怒りはどの程度かという分析に移りましょう。特に、怒りの程度については1から10までの10段階に分けて数値化することが推奨されています。怒りを数値化することによってどれだけ怒るべきか判断がしやすくなる為です。

次に考えるべきことは、相手に何をどう伝えるかということです。これまで説明してきた通り、怒りを怒りのまま相手にぶつけるだけでは、相手に伝わるのは「あなたが怒っているということ」ばかりです。怒りが前面に出ることによって、肝心の何故怒っているのか、次からどうして欲しいのかが伝わりにくくなってしまうことは双方にとってデメリットしかありませんよね。

特に、ビジネスの場において怒りを感じるのは、部下が何かミスを犯し、その事実を上司であるあなたに報告しにきたような場面であることが多いでしょう。

・そのミスによって生じる損害はどの程度なのか
・リカバリの方法はあるのか
・その為に何が必要か
・何故そのミスが生じたのか
・再発を防ぐためにはどうすればいいか

こういった内容についてミスをした本人と一緒になって話し合い、建設的な答えを出そうと思ったら、怒りの感情がどれだけその妨げになるかわかるはずです。

怒りは不測の事態に対して起こるもの。アンガーマネジメントは、そんな不測の事態でも冷静に対応する為のスキルなのです。

怒りを抑える効果は、部下のモチベーションの低下を防止できるだけではありません。ミスをした部下からすれば、そんな自分に対しても優しく冷静に対応してくれる上司の存在は、とても頼もしく輝いて見えることでしょう。

アンガーマネジメントは、モチベーションの低下というマイナスをゼロにするだけでなく、上司であるあなたへの信頼というプラスの効果まで期待できるものなのです。

【参照】
https://www.angermanagement.co.jp/training
https://www.angermanagement.co.jp/about
https://amjapan.or.jp/about/index.html
http://www.dhbr.net/articles/-/3515
https://psych.or.jp/publication/world080/pw03/
http://www.yonden.co.jp/cnt_landl/1808/hitokoto_journal.html
http://www.dhbr.net/articles/-/3515
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/15/111700008/030800126/
https://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20120703/234051/

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いかがだっただろうか。仕事が上手くいかないイライラや、部下への叱責などの怒りをコントロールすることが、きわめて重要である、ということがおわかりいただけただろうか。

引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/

 

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