
人は誰しも最期を迎えます。いつか来るその時に向けて終活を考えなければと思いながら、命の終わりについて考えるのはちょっと重いしちょっと怖い。そう思っている人も多いでしょう。
終活スナック「めめんともり」の店主で海洋散骨のパイオニアと言われる村田ますみさん。初のライトエッセイ『ちょっと死について考えてみたら怖くなかった』(ブックダム)では、「死は恐れるものではなく、生き方を見つめ直すもの」と、目を背けていた人たちの背中をそっと押してくれます。
今回は、棺桶に実際に入ってみる入棺体験についてご紹介します。棺桶の中で聞く弔辞や、友人・知人たちの言葉がどんなふうに自分に響くのか、あなたらしい生と死について考えてみるきっかけになるかもしれません。
文/村田ますみ
棺桶に入って生まれ変わる!?
「カラオケないけど、カンオケあります」がキャッチコピーのめめんともり。お店には、チーママであり棺桶作家の布施さんの手がけた美しい棺桶が置かれています。そのときどきで籐(ラタン)製のものがあったり、素敵な布が貼ってあったりと、形や素材、模様もさまざまなので、私もいつも新作を見るのが楽しみです。
もちろん棺桶ですから、ただ飾っているだけではありません。めめんともりでは月に一度、「入棺体験ワークショップ」というイベントを行っています。普段の営業時でも棺桶に入ることはできますが、ワークショップではじっくり2時間という時間をかけて自分を見つめ直し、死に向き合う体験をしていただきます。
私がこのイベントを始めたのは、めめんともりの前身であるブルーオーシャンカフェでした。当時は入棺した後、お坊さんにお経を唱えてもらっていましたが、参加する方が、より「自分らしい最期」を感じられるように、現在は自分への弔辞(お別れの言葉)を書いて棺桶で聴くという体験にフォーカスを当てています。
ワークショップの参加者は、最期に着たいと思う服に着替えてもよいですし、棺に入れたいものを持ってきてもOKです。それぞれの方の自分らしさが出ることを大切にしています。
イベントでは、まず自分自身を見つめるために「Who are you?(あなたは誰?)」を問い続けるというワークをします。その後、誰に弔辞を読んでもらうかを決め、その人からの自分宛の弔辞を書いたら、いよいよ棺桶に入ります。
顔の周りにお花を入れて写真を撮り、落ち着いたところでゆっくりと蓋が閉じられます。棺桶での“旅”は約3分間。自分に宛てられた弔辞や、一緒に参加している友人や家族からの声を棺桶越しに聞くのがこのワークショップの醍醐味です。
そして、旅を終えると棺桶の蓋が開けられ、「お帰りなさい」の言葉とともに、こちらの世界へと戻って来るのです。
棺桶から出てくる人は、涙を流していたり、笑顔だったり、少し照れくさそうだったり……。
表情はさまざまですが、皆、どこかすっきりしているように感じられます。この瞬間に、生まれ変わったような、心にあったモヤモヤが晴れたような感覚になる人も多いです。
ちなみに棺桶の中の居心地は……?
「思ったより狭いけど、怖くはなかった」
「赤ちゃんの入るゆりかごみたい」
「宇宙を感じた」
「お母さんのお腹の中に戻ったみたい」
「リラックスできた」
「あと1時間くらい入っていたい」
などなど。
何度か棺桶に入っている人も、その度に感じることは違うといいます。

「あなたは誰?」を問い続けると、自分の人生が見えてくる
ワークショップでは「Who are you?(あなたは誰?)」のワークも欠かすことができません。
これは棺桶に入る前のウォーミングアップとして、自分とはいったい何者なのだろうということを見つめていくものです。
まずペアになって、5分間、お互いに「Who are you?」をひたすら問い続けていきます。
例えば、
「あなたは誰ですか?」
「私は村田ますみです」
「あなたは誰ですか?」
「私はめめんともりのママです」
「あなたは誰ですか?」
「私は母です」
というように属性を答えてもよいですし、「私は○○が好きです」「今、お腹が空いています」とか「ちょっとドキドキしています」など、自分自身のことや、気持ち、感情を答えてもよいです。
スラスラと答え続けて、「あっという間でした!」という人もいますが、多くの人は、最初の1分足らずで答えに詰まってしまい、次第に自分の内面を掘り出す作業に入ります。
自分はどんな人間なのか? 改めて問われると、わたしという存在は、実にさまざまな要素で構成されていることに気づかされます。
また、ペアになった相手にどこまで自分のことを開示するか? といったことで葛藤することもあります。その場合は、出てくる答えよりもその葛藤したことに大きな気づきがあります。
以前、5分間ひたすら「私の名前はあけみ(仮名)です」と答え続けた人がいました。彼女にしてみれば「私はあけみであって、それ以上でもそれ以下でもない」ということなのだそう。
けれど、5分間ひたすら「私はあけみです」と言い続けた結果、「そういえば、最近私、あけみとか、あけみちゃんって呼ばれたことがない」ということにハッと気づいたといいます。
子どもの頃はただ名前で呼ばれる存在だったのに、年を重ねるにつれ、役割や属性によって呼ばれ方も変わっていく。そういったことも実感できるのかもしれません。
5分間じっくりと自分という存在を見つめていくと、これまでの人生で何を大切にしてきたのか、これからどう生きていきたいのかが見えてくるのではないでしょうか。
私もこのワークには参加者として入ることがよくありますが、その度に違った「私」が出てくるので、毎回発見があり、面白いです。
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『ちょっと死について考えてみたら怖くなかった』
著者/村田ますみ
ブックダム 1,760円

村田ますみ
1973年東京生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。YOMI International株式会社 代表取締役CEO。IT業界、生花流通業界を経たのち、亡き母を散骨したことをきっかけに2007年株式会社ハウスボートクラブを起業。2024年2月、死についてオープンに語り合えるサードプレイス「終活スナックめめんともり」を東京都江東区森下に、2025年2月には2号店となる沖縄店をオープン。著書に『ちょっと死について考えてみたら怖くなかった』(ブックダム刊)
