不況の逆境にめげず“販売の一芸”を使い50代で再スタートを目指す

もう一つ、笙子さんを退職に駆り立てたのが、アパレル販売員の間で囁かれる転職の法則“55歳の壁”だった。一般的に正社員での転職は30代までが限界といわれるが、経験と実績がものをいう販売の世界では、一つの目安として、55歳までは正社員採用の道が開けているという。

「退職金が割り増しで支払われたので、ローン返済の目途は立ちました。辞めて半年は、高齢になった両親と旅行に出かけて親孝行の真似事をしたり、先に辞めた先輩や同僚を訪ね再就職の情報を聞いたり、比較的のんびり過ごしていました。今は婦人服にこだわらず、今までのスキルを活かせる最後のチャンスだと思い、アクセサリーや小物などさまざまな分野にアプローチをかけています。実際に色よい返事をもらっている会社もあり、退職時のもやもやした気持ちはないですね。 “もう50”ではなく“まだまだ50”という気持ちで、最低でも10年は働き続けたたいと思っています」

仕事だけではなく恋愛でも枯れる気はないという。

「“老後に一人は不安だろう”と、この年齢になっても田舎の両親はお見合いをすすめてきます。田舎にも独身男性が多いようで、60代、70代でも婚活されている人がいるようですね。“大丈夫だから”と断っていますが……。風前の灯とはいえ、決してパートナー探しをあきらめたわけではないですよ(笑)。これから新しい職場に行けば新しい出会いがあるかもしれませんし。50代になってわかったことは“これまでやってきたことしか頼りにならない”ということです。新しいことをやっても実を結ぶ頃には還暦を過ぎてしまう。一生、販売の仕事を貫いていきたいですね」

ようやく「不惑」の境地を抜け、「知命」の50代が始まろうとしていた。

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