夫は妻に生活費を渡さなくなった
息子はその後、離婚した。慰謝料で全ての貯金は持っていかれたことは知っていたという。それとは別に、毎月の養育費を支払っている。
「あれから2年、ホントにいろんなことがありました。可愛いと思っていた元嫁は、ウチから一切合切のお金を奪おうとしました。でも、主人がしっかりと防波堤になってくれた。元嫁は息子が盗撮をしていた画像を持っており、それをちらつかせて私たちを脅してきたのです」
痴漢が逮捕されるのは、氷山の一角だ。多くの女性が知らない間に性被害を受けている。政府が本腰を入れて対策をするのも納得だ。また、この一件以来、夫は朋美さんに生活費を出さなくなった。痴漢被害者の示談金をへそくりで支払っていたことに憤っているのだ。
「主人は息子のことを憎んでいて、離婚後はウチに身を寄せることも許しませんでした。息子は友達の家に行くなどして、急場をしのぎ、今はウチの近くでアパートを借りています」
家を借りるのは大変だ。公務員をしている朋美さんの弟が契約者となり、やっとのことで借りられたという。家賃5万円だが、家電の購入などや経費もかかり、50万円ほどのお金が出ていったという。弟からは「姉ちゃん、甘やかしすぎだよ」と言われたそうだ。このときに、虎の子の貯金を解約する。
「住所が決まれば、就職ができるので、今もIT関連の会社で働いています。とにかく痴漢だけはしないようにと、電車に乗らない会社にしてもらったんです」
家賃の引き落とし口座を聞くと、朋美さんの名義の口座だという。夫からは生活費を止められ、パートの収入は月6万円。息子の家に差し入れもしている。お金は明らかにないだろう。
「ないですよ。ホントにない。娯楽費がないんです。主人は家にいることはいいと言いますが、エアコンを入れると“光熱費がもったいない”と怒るんです」
明らかに夫の考え方は時流に合わない。会社の経営も危ないのではないかと質問すると、「そうなんです」と言う。これまで朋美さんは「主人が死ねば、財産は私のものだ」と頑張って来たのに、その財産がなく、借金を相続する羽目になりそうなのだという。
朋美さんはまだ65歳だ。これから、行政などに相談し、自活の道を探ることが先決ではないか。朋美さんは短大卒。かつて受験勉強をした人は、勉強のコツをわかっている人が多い。今から稼げる資格の勉強もできるだろう。
しかし、「私はバカだから無理」という。問題を先送りし、その場しのぎの対策をし続けた人生の先に何があるのか。気づいて、行動すれば、今よりもきっといい未来が待っているはずだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。