子どもの能力を伸ばすために最も大切な時期は、小学校に入学するまでの乳幼児期と言われています。この時期に、興味のあるものや関心事に集中できる環境をつくってあげることが大切だそうです。
そこで、絵本の読み聞かせを通じて、子どもの脳と心を育てる方法を述べ4万人以上の親や教育関係者に指導してきた仲宗根敦子さんの著書『子どもの脳と心がぐんぐん育つ 絵本の読み方選び方』から、絵本の読み聞かせで子どもの能力を伸ばす方法をご紹介します。
文/仲宗根敦子
読むべき絵本を選ぶための7つのポイント
では、ここからは、絵本の選び方をご紹介します。選ぶポイントは7つです。
1.絵を見るだけでストーリー展開がわかる絵本を選びましょう。
2.読み始めは生活絵本を選びましょう。
3.対象年齢は気にせずに子どもに合った絵本を選びましょう。
4.リズム感のある絵本を選びましょう。
5.喜怒哀楽の感情に訴える絵本を読みましょう。
6.今も昔も未来も、男女の性別も超えた体験ができる絵本を選びましょう。
7.芸術も体験できる絵本を選びましょう。
具体的に説明していきますね。
1.絵を見るだけでストーリー展開がわかる絵本を選びましょう
子どもは、感覚や感情、イメージを司る右脳が優位なので、絵を見てイメージすることで文章も理解でき、思考力や読解力がついていきます。子どもは五感が敏感ですので、絵全体を一瞬でイメージして捉えます。私たち大人には気づかないようなところに気がつきますし、想像力もどんどん広がります。
また絵のページと文章の内容が合っているものを選んでください。絵と内容のつじつまがあっていないと、子どもが混乱します。例えばグリム童話の『おおかみと7匹のこやぎ』の絵本で、狼に食べられる前の絵に、「狼に食べられた」と書かれていたりするものがありました。そうすると絵が与えるイメージと内容が一致しないため、子どもが、興味を持たなかったり、楽しめなかったり、と集中できない原因にもなります。
2.読み始めは生活絵本を選びましょう
例えば『くだもの』(福音館書店)などの、身近なものを取り上げた絵本は乳幼児がよく反応します。まだ何も知識がない赤ちゃんは親が「りんごは赤いね」「りんごはシャキシャキだね」「りんごは甘いね」「りんごは丸いね」と、言葉で伝えることで、「りんご」という存在を認識していきます。
そして、絵本で見たくだものを、スーパーで実際に見つけたときの感動を、しっかり受け止めてあげましょう。「わぁ、ほんと、りんごだね」「絵本で見たね」などと一緒に感じてあげてくださいね。子どもにとっての本物のりんごは、まるで、あなたが大好きなアイドルやタレントとばったり出会ったくらいの感動を与えます。このとき、子どもの脳の神経細胞のネットワークがつながっているのです。
また、子どもが嫌がる生活習慣に困っているママも多いですよね。例えば、歯磨きやトイレトレーニングやお風呂もそうですね。歯を楽しく磨く、お風呂に楽しく入る、トイレトレーニングを成功させる絵本を読むことで、子どもは
絵でイメージすることができます。
また、何度も繰り返し読み聞かせることで、自分もできるという疑似体験をしますので、実際にやるときも楽しくスムーズにできるようになります。ただし、1、2回では成功しませんので、すぐに結果を求めず、あくまでも楽しみながら絵本を読んであげてください。
3.対象年齢は気にせずに子どもに合った絵本を選びましょう
絵本に慣れている子と慣れていない子では集中できる時間も異なります。その子が心から楽しめる絵本を選びましょう。親はどちらかというと「知識を先取りさせたい」と年齢より上の対象年齢の絵本を選びがちですが、絵本に慣れるまでは、まずは楽しめることを優先し、対象年齢は気にせず絵本を選んでください。
例えば5歳のお子さんでも、これまでほとんど絵本の読み聞かせの習慣が無かった場合は、1分以内に読み終わる絵本や、リズム感のある繰り返しの言葉の絵本などを選びましょう。1回1回「よく聞けていたね!」「集中していたね!」と声をかけます。そうすると次第に長い絵本も楽しめるようになります。
大切なことは、子どもが絵本を楽しいものと感じてくれることです。子どもは楽しいと思うことにしか集中しません。
4.リズム感のある絵本を選びましょう
子どもは音楽に合わせて飛んだりはねたりすることが大好きです。韻を踏んだり、繰り返すような、リズム感のあるフレーズは心地良いので、子どもに安心感を与えます。子どもは何度も繰り返し体験することで、身体感覚も身につけていくことができます。中でも絵本にたくさん出てくる擬音表現・擬態表現である「オノマトペ」はイメージを広げることができます。
ある書道の先生はお子さんに「はらって、とめて」と技法を伝えるよりも、「さっ、しゅっ、ぽん」など「オノマトペ」で表現したほうが、お子さんたちの字が上手に書けるようになると、仰っていました。このように、「オノマトペ」や言葉は、身体や脳に良い影響を与えます。また表現する力もオノマトペを使うことで養われ、感性や個性が豊かな子に育ちます。
5.喜怒哀楽の感情に訴える絵本を読みましょう
人間の感情はすべて大切です。悲しさ、怒ることも大切な感情です。すべての感情を味わうからこそ、人の心がわかり共感できる人に育ちます。悲しい内容だから、などと避けずに、いろいろな感情が体験できる、様々な内容の絵本を選びましょう。
6.今も昔も未来も、男女の性別も超えた体験ができる絵本を選びましょう
男の子だから車の絵本、女の子だからケーキの絵本などと制限せず、様々なジャンルの絵本を選んであげてください。絵本の醍醐味は、過去にも未来にも、海の中でも宇宙でも行けて、お侍さんにも、魔法使いにも、小人にもなれることです。絵本を通してたくさんの疑似体験をすることで、子どもは自分の興味や関心のあることを見つけることができるようになります。
7.芸術も体験できる絵本を選びましょう
私は、絵本は本の中で一番芸術性が高いと思っています。少ないページ数の中で、作家が伝えたいメッセージを、美しい絵と厳選した文章で伝えるために、1ページ、1ページ工夫を凝らしています。まさに芸術作品だと言えるでしょう。絵本を選ぶときは、値段ではなく、自分が好きだなと思った絵の作品を手に取ってください。感性を育てる芸術作品のように絵本を選んで欲しいと思っています。
上記7つのポイントをふまえて、子どもの個性に合った絵本を選びましょう。
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『子どもの脳と心がぐんぐん育つ 絵本の読み方選び方』(仲宗根敦子 著)
パイ インターナショナル
仲宗根敦子(なかそね・あつこ)
親と子のしあわせな未来をつくる、絵本の読み聞かせ方を指導する一般財団法人「絵本未来 創造機構」代表理事。 大手航空会社に勤務中、長男が2歳、次男が0歳のときに、警察官だった夫が殉職。その後フルタイム勤務のシングルマザーとして、子どもたちに接することができる短い時間の中で育児に悩み、息子たちに絵本の読み聞かせを始めたところ、子どもの変化と自身の精神安定のために、いかに絵本が良いかを実感。その内容を体系化し、1人で講座をスタートさせ 2017年に協会設立。絵本講座以外に文章講座、夢を叶える講座などを主催し、小・中・高校・大学や公立図書館、企業等での講演を行い、団体設立からわずか4年で、約4万人が講座を体験。また、日本全国はもちろん、海外では台湾・シンガポール・イギリス等で、同財団の認定講師、約800人が、絵本読み聞かせのプロフェッショナルとして活躍している。