「自分が仕事を辞めると会社は回らない」と思い込んでいた
激務に加え、社長のあたりも強くなっていく。その原因は先ほど隆司さんが「得意じゃない」という仕事だったという。
「その頃から注意力散漫というか、データで些細なミスを繰り返すようになってしまって、社長から怒られるようになりました。他の社員が怒られる場合には私のようなワンクッションがあるのですが、私にはなく、直接暴言を受ける。リモートになっているのにいきなり会社に呼び出されて、ソーシャルディスタンスも無視で詰め寄られて『どうしてこんなこともできないのか、教えて?』とパワハラまがいの発言もありました。
そこから眠れなくなり、お腹も空かなくなっていきました。体重は3か月ほどで6キロも落ちたんです。元々標準体型で太ってはいなかったのでこんなに短期間で一気に痩せたのは初めてです。高校生ぐらいのときの体重になりましたね」
その異変に気付いてくれたのは、同棲中の彼女だった。それでも仕事を続ける隆司さんに対して彼女の貯金額がわかる通帳を見せてきて、「あなたが仕事をしない間、生活できるだけ持っているから休んで」と言ってくれた。ここでやっと仕事を手放してもいいと思えたという。
「すごく男前ですよね(苦笑)。私は弟に仕送りしていて、借金を肩代わりしたことでそんなに貯金も残っていなかったのです。彼女はそれに気づいていた。
『体、命以上に大切な仕事なんてない!』と言い切ってくれました。そこから辞めてもいいんだって気持ちが楽になりましたね。
振り返ると、人から相談を受けるばかりで私は誰かに自分のことを相談するのが得意じゃなかったんです。相談することでこんなに気持ちって軽くなるんだって40歳手前で初めて気が付きましたよ」
隆司さんはそこから彼女によく相談するようになり、今はフリーとして自分のペースで仕事を続けているとのこと。彼女との再婚に向けて、貯金を始めているそうだ。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。