解像度を高めるために第10代将軍足利義稙を知る

尾上右近さん演じる足利義昭。(C)NHK

I:そういえば、信長の「天下布武」というキャッチフレーズが、京都を中心にした畿内での統治の回復で、足利将軍家の再興を志したものだということが説明されました。

A:第10回に信長や秀吉(演・池松壮亮)らが上洛した際の京の様子が、寂れた感じだったことが印象に残った方もいたかもしれません。京都は応仁の乱(1467~1477)でその大半が灰燼に見舞われ、その後も合戦の連続でしたから、秀吉らがみた京都の様子が実相に近いのかもしれません。そうなると、なぜ、「天下布武」=足利将軍家の再興なのかというのが理解しやすくなると思います。その歴史を深掘りしたいという方、『豊臣兄弟!』劇中の解像度を高めたいという方は、室町幕府第10代将軍足利義稙(よしたね)の人生を振り返っていただくとわかりやすいかと思ったりしています。

I:室町幕府第10代将軍!

A:応仁の乱後、10年ほど経ってから将軍職に就いた人物です。中世史の山田康弘先生の『足利義稙―戦国に生きた不屈の大将軍(中世武士選書33)』(戎光祥出版)という本を読むと、この頃のめちゃくちゃな京都の動静に触れることができて、「ああ、この流れの延長線上に信長の戦いがある」と、『豊臣兄弟!』の解像度がアップします。足利将軍家は第10代義稙、第11代義澄、第12代義晴と続きますが、いったん京都を追われた第10代義稙が13年のブランクを経て、義澄のあとに再び将軍に復帰するという驚天動地の展開は刮目です。

I:私もちらっとめくってみましたが、細川一門、三好一族の動向、そのほか細川一門の宗家である京兆家の有力家臣などが複雑に登場してくるので、正直「京都、わけがわからない」状態で驚きました。こういう京都の状況を理解すると「天下布武」がなぜ求められたのかよくわかります。

A:同書で知ったのですが、京都に復帰した足利義稙が、政権がやや安定した1517年に、京都から有馬温泉に湯治に出かけようとしたんだとか。現職の将軍が京都を留守することを危惧する周囲は有馬温泉行を思いとどまるように諫言したそうですが、義稙は有馬温泉行を強行したそうです。そのタイミングで、義稙にとっての織田信長的存在で10年在京していた周防の大内義興が帰国してしまい、また京都が不安定になったそうです。

I:まるで任侠映画の出入りのようですね。

A:まさに! 『麒麟がくる』では向井理さん演じる第13代将軍足利義輝が三好三人衆らに討たれる場面が描かれましたが、『豊臣兄弟!』でも「本圀寺の変」と題して戦いの様子が描かれることになりました。応仁の乱以降、延々と合戦を繰り広げていたということです。

I:それは、京都も荒れてしまいますよね。

A:信長上洛の際の京都の荒れ具合といえば、小一郎や秀吉、蜂須賀小六(演・高橋努)らが、京の民衆に銭をまいていましたが、なにしろ、当時の後柏原天皇、後奈良天皇は日本の歴史上もっとも皇室が貧しかった時期になります。後柏原天皇は践祚から20年以上、後奈良天皇も10年以上即位の礼ができないという状況に追い込まれていたのです。そして、ここで足利義稙のことを事例にあげたのは、「13年流浪の末に将軍職に復帰」という経歴に注目してほしいからです。尾上右近さん演じる第15代将軍足利義昭もやがて、各地を流浪することになります。それが『豊臣兄弟!』の中でどこまで描かれるのか判然としませんが、「第二の義稙」になったかもしれない将軍がいたということを記憶に残していただきたいです。

I:今後、織田軍団がどう描かれるのか興味津々ですね。

今回も、兄弟の強い絆が描かれた。(C)NHK

※高嶋政伸の「高」は正しくは「はしごだか」。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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