これから先、何台、愛車と呼べる車を持つことができるだろう……、と自分の年齢から逆算して数えることがある。今のタイミングで買うなら現愛車をとても気に入っているので手放すわけにはいかず、増車するしかない。でも都内だと2台体制は厳しいし。そんな悶々とした思いを抱えながら、日々、次の愛車候補を探し、所有したらこんな生活が待っているかもしれないと妄想する時間を楽しんでいる。
今回、そんな妄想を抱きながら試乗した車は日産新型Z。先代のZから約13年半ぶりのモデルチェンジで登場した7代目。初めてこの世に”フェアレディZ”が誕生したのは1969年だから、約50年もの間、人々に愛され続けてきた2シーター、フロントエンジン、リヤドライブ(FR)のスポーツカーだ。話題の電気自動車を出している日産だが、こちらは内燃エンジンでしかも、マニュアル車の設定も用意されている。「この時代にマニュアル車のスポーツカーを出してくれるなんて、ありがとう、日産!」とリリースされたときは、思わず握りこぶしをつくってしまった。スポーツカー好き、Z好きにとっては待ちに待った1台だ。
私がはじめて新型Zを見たのは2022年1月の東京オートサロン。大きな会場の一角に、人だかりができており、その奥に威風堂々と新型Zが鎮座していた。ロングノーズ・ショートデッキ、流れるようなルーフライン、存在感を演出するブリスターフェンダーなどZらしさは健在。そしてどこか初代Zの匂いを感じるそのフォルムに、歴代Zへの敬意を感じ、どのような走りをするのだろうとライトアップされえたZを見ながら胸の高鳴りを隠せなかった。
初代Zの匂い。その直感は間違いではなく、7代目のフェアレディZは、歴代Zのオマージュと最新技術が融合された車。ロングノーズ・ショートデッキという車体後部のトランク部が短いというスタイリングは、初代フェアレディZ(Z30)を彷彿とさせるもの。新型Zに装備されたシグネチャーLEDポジションランプも、初代Zのレンズカバーの反射で浮かぶアイラインがモチーフになっている。そのほかにもバンパーやリヤコンビランプ、バッジ類などにも歴代モデルをモチーフにしたデザインが注がれている。デザインに関しては最初から初代Zを目指したのではないとのことだが、約50年続くZへの敬意と愛を追求した結果が、新型フェアレディZのフォルムを完成させたのだろう。新型フェアレディZの型式はZ35ではなく、RZ34で「R」はリファインを意味する。Zを今の世に再び解き放つために、マイナーチェンジとして車内企画を(おし)進めたなどの裏話を耳にすると、何としてもユーザーの要望に答え、発売というゴールに辿り付きたかったという制作陣のほとばしる情熱を感じることができる。実際、構成部品の8割は新しく作られているのでフルモデルチェンジといってもよい内容になっている。
新型Zを初めて見たときの胸の高鳴りから半年以上が過ぎ、新型フェアレディZバージョンST、9速オートマチックに試乗する機会を得た。Sはスポーツを示し、Tはツーリングを意味する。つまり「ST」は、快適装備を兼ね備えたスポーツカーということを示す最上位グレード。
運転席に乗り込み、まずはシート合わせ。シートの前後と、背もたれはシート座面の左側にある電動スイッチで調整する。座面調整は、シートの右側にあるダイヤルを手動で回す。
センターコンソールにあるスタートスイッチを押してエンジンを始動させると、一瞬エンジンサウンドが高鳴り、同時に12.3インチのフルデジタルメーターがグラフィックとともに浮かび上がる。ダッシュボードの上には3連のアナログメーター(ブースト計、ターボ回転計、電圧計)が鎮座。9速ATのシフトセレクターをドライブモードに入れ、機械式のサイドブレーキを降ろす。デジタルと、アナログが融合されている運転席だった。乗り込む前の一連の動作は「これから走るぞ」という気持ちを整えてくれる感じがあって、なかなか面白い。
走るモードはスタンダードと、スポーツのふたつ。スポーツはエンジンなどのレスポンスを高めたモード。まずはスタンダードでスタートした。少し交通量の多い街中を時速30~50km程度で走っていると、歴代Z最強のパワー405馬力を誇るエンジンが搭載されていることも気が付かないほど、静かでなめらかに走る。足回りも硬すぎず柔らかすぎず。でも信号待ちからのスタート時や走行中、アクセルを踏み込み加速するときは、太いトルクが心地よい加速をサポートする。
新型Zのエンジンは、スカイライン400Rに搭載されているエンジンと同じ、過給のラグを抑えるために小径タービンが採用されたVR30DDTT。このエンジンをもとに新型Zのコンセプトに合うよう、さまざまな創意工夫が施されている。高いレスポンスを実現させるために、アクセルオフのときにタービンが失速しないよう、過給の逆流を抑えるリサーキュレーションバルブを加えたこともそのひとつ。
そしてこのエンジンが本領を発揮するのは、上の回転領域にあった。
走行モードはスポーツモードを選び、マニュアルモードに設定しパドルシフトを使って高速道路へ。パドルシフトはハンドルの裏側に装備されていて、右側のパドル(レバー)を引くとシフトアップ、左側のパドルを引くと、シフトダウンになる。
高速道路での合流で、エンジンの最大回転数まで引っ張ると、デジタルタコメーターの上部に設置された、シフトアップインジケーターが、左右から緑→黄色→赤の順に点灯し、赤のインジケーターが点滅する。この点滅したときがシフトアップポイントだ。
加速とともに耳心地よいマフラー音、エンジンサウンドも高まっていく。これは車内の静粛性を保ちつつ、エンジン音を引き立てる「アクティブ・ノイズ・コントロール」と「アクティブ・サウンド・コントロール」の恩恵。電子デバイスを使って、走行時のエンジンのこもり音を打ち消し、エンジン回転数などに応じてスピーカーから疑似音を奏でている。
メーターの演出、唸るエンジン音とともに力強い加速は、新型フェアレディZの秘めたる心臓部のたくましさを感じる瞬間で、ハンドルを握る側も高揚する。スポーツモードでパドルを使って、シフトのアップダウン操作をするのは楽しい。もちろん燃費重視であれば9速ATは燃費にも貢献してくれる。
さて、今回の新型フェアレディZは「ダンスパートナー」というテーマが掲げられている。「乗り手が意のままに操れる」ということを意味しているそうなのだが、Zを走らせてみて感じたことは、スポーツカービギナーからスポーツカーが好きな方まで、幅広く受け入れてくれる、受け皿が広いスポーティな車だなということ。とにかく、懐が広い。
通常のスタンダードで走れば尖った部分はマイルドに抑えられつつも、下から上まで(1600~5600回転)幅広いトルクが楽しめる。日常運転の安全をサポートする先進技術ももちろん搭載されている。それぞれの運転者のレベルまたは、運転者自身が求めるものに応じて、安全に楽しませてくれるという部分は、乗る人々に寄り沿ってくれる頼もしいダンスパートナーといえるだろう。
そして最後に付け加えたい点は、助手席の座り心地だ。
新型フェアレディZは、助手席に座る方への配慮も忘れていない。体をすっぽりと包むシートと広い足元の空間は、ゆとりがあり快適。センターコンソールに配置されたカップホルダーのほかに、各ドアのドアポケットにもボトルホルダーが用意され、シートの後ろには荷物を置くスペースを確保している。日常の道であれば車内の会話もエンジン音にかき消されない。ひとりドライブをわがままに満喫できるスペックを持ち合わせながらも、大人2人が心地よく過ごせる空間が用意されている。
「ああ、こういうところもダンスパートナーと謳っているゆえんなのかもしれない」と思った。人と車の関係がダンスパートナーなのであれば、肝心の運転席と助手席に座る人とのコミュニケーションも大切。新型フェアレディZは、助手席に座るダンスパートナーもとい、パートナーとともに、楽しめるスポーツカーなのだ。
※現在、世界的な半導体不足による部品供給の影響などで、受注は停止となっている。将来的に受注開始となったとき、手に入れたい方は即断即決が求められそうだ。
日産/フェアレディZ Version ST
全長×全幅×全高 4380mm×1845mm×1315mm
ホイールベース 2550mm
最小回転半径 5.2m
車両重量 1620kg
エンジン:V型6気筒DOHC(VR30DDTT) 2997cc
トランスミッション:9速AT
最高出力;405ps/6400rpm
最大トルク:48.4kgm/1600-5600rpm
燃費消費率(WLTC) 10.2km/l
駆動方式:後輪駆動
サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン リア:マルチリンク
タイヤ:F 255/40R19 R 275/35R19
車両価格646万2500円
文・写真/鈴木 珠美(すずき・たまみ)カーライフジャーナリスト・ゆるトレ講師
出版社勤務を経て独立。女性誌、ブライダル情報誌、動物雑誌で企画編集に携わる。女性のカーライフを応援する「beecar(ビーカー/https://www.beecar.jp/ )」の編集長。車、女性、生活、健康を軸にコンテンツ制作会社「オフィスタマ」を運営。運転疲れを軽減するストレッチの監修、テレビ・ラジオ出演、セミナー講師など幅広く活躍。