
価値観が多様になった今、うっかり人生経験を語ると「説教っぽい」と受け取られてしまうこともあります。けれど、相手を思うからこそ、言葉を添えたい場面はあるもの。とはいえ、長い説明がいつも届くとは限りません。忙しい時代、相手の心に残るのは、案外「短い一言」だったりします。
そんなとき頼りになるのが、先人の言葉です。自分の気持ちを代弁してくれて、しかも角が立ちにくい。言葉の選び方ひとつで、伝わり方は変わります。今日の言葉が、あなたの「伝え方」の味方になりますように。
今回の座右の銘にしたい言葉は「鉄心石腸」(てっしんせきちょう) です。
「鉄心石腸」の意味
「鉄心石腸」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「いかなる困難にも負けない、鉄や石のように堅固な精神」とあります。鉄のように堅い心と、石のように動かない「腸」(はらわた)——つまり、意志や信念が非常に強く、困難や誘惑、周囲の反対に簡単には揺らがないことを表しています。
ここでいう「腸」は、現代の私たちが考える消化器官というよりも、心の内側や精神を指しています。つまり、「鉄のような心と、石のように固い精神」という意味です。
苦しいことや誘惑に出会っても、簡単には考えを変えないこと。周囲の意見に流されず、自分が正しいと信じた道を貫くこと。このような強い意志を表現するときに使われます。
ただし、単に「頑固である」という意味ではありません。自分の都合を押し通すのではなく、信念や責任を胸に抱き、困難に耐えながら歩み続ける姿勢に重きがあります。

「鉄心石腸」の由来
「鉄心石腸」の由来は、諸説ありますが、中国・宋の文人である蘇軾(そしょく)の文章にあるといわれています。蘇軾が友人に宛てた書簡の中で、「鉄心石腸」という表現が使われたのが出典として知られています。
この言葉は、もともと「変わらぬ強い心」を示す表現として用いられ、のちに「どんなことにも動じない精神」という意味で広まったようです。
「鉄心石腸」を座右の銘としてスピーチするなら
「鉄心石腸」を座右の銘としてスピーチする際は、四字熟語の説明だけで終わらせないことが大切です。特に「鉄心石腸」のような力強い言葉は、伝え方によっては「もっと頑張れ」「意志を強く持て」と相手に強要しているように聞こえてしまう恐れがあります。
そうならないためには、「自分自身への戒め」や「これからの人生のテーマ」として語ることがポイントです。以下に「鉄心石腸」を取り入れたスピーチの例をあげます。
定年退職時の挨拶としてのスピーチ例
私の座右の銘は、「鉄心石腸」です。鉄や石のように、揺るがない心を持つという意味です。私はこれまで、仕事や家庭の中で、思い通りにならないことを何度も経験してきました。努力しても結果が出ない時期もありましたし、自分の判断が正しいのか迷ったこともあります。
そのたびに、周囲の意見に耳を傾けながらも、最後は自分が大切にしたいものを考えて決断してきました。
もちろん、私はいつも強くいられたわけではありません。不安になることも、誰かに支えてもらうこともありました。ですから、鉄心石腸とは、決して人の気持ちを受けつけない、頑固な心のことではないと思っています。むしろ、人の言葉を受け止めたうえで、自分の信念を簡単には手放さない姿勢です。
これから先は、若い頃のように勢いだけで進むことはできません。しかし、これまでの経験を生かし、困難に直面しても慌てず、自分らしい判断を重ねていきたいと思います。そして、家族や仲間の気持ちにも寄り添いながら、守るべきものを守れる人でありたいと願っています。「鉄心石腸」という言葉を胸に、柔らかさを失わず、芯のある生き方を続けていきたいと思います。
最後に
「鉄心石腸」は、鉄や石のように揺るがない心を意味する四字熟語です。人生には、予想外の出来事や、簡単には答えの出ない問題が訪れます。そのとき必要なのは、強がることではありません。迷いながらも自分の信念を見失わず、また歩き出す力です。
「座右の銘は何ですか?」と聞かれたら、「鉄心石腸です。人の意見には耳を傾けながらも、自分が大切だと思うことは簡単に曲げずに生きたい、という思いを込めています」と答えてみてはいかがでしょうか。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











