写真:photoAC(一部加工)

朝晩が少しずつ涼しくなってきた頃から、なぜか咳だけが続く。
透明な鼻水が、いつまでもすっきりしない。

「風邪かな…、まさか花粉症?」

そう思いながらも、はっきりした原因がわからないまま、モヤモヤしている。そんな経験はありませんか?

じつはその不調、中医学の視点から見ると、原因は鼻や喉ではなく「胃腸」に隠れているかもしれません。

本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生に、中国伝統医学の知恵から、体の違和感について、そのサインを読み解いてもらいます。秋口にゼロゼロする喉や鼻の原因を探り、毎日の生活でできる小さな養生法を紹介します。

今日は、猛暑の夏を冷たいかき氷で乗り切ったという50代の男性が相談に訪れています。

ちょっと、覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者:53歳(会社員)
症状:9月に入ってから、痰が絡む咳が続き、透明な鼻水も止まらない。鼻から喉周辺のゼロゼロする感じが気になる

リスト作成:もぱ

楽しかった夏の思い出

「中村さん、こんにちは。今日はどうされました?」

入ってきた相談者を、志村先生はいつもの明るい声で迎えました。何度か顔を合わせている、顔なじみの男性です。

「お久しぶりです。ちょっと風邪みたいな感じで…」

中村さんは、居心地悪そうに、片手に持ったハンカチで鼻を拭きます。

「そうですか。まあ、どうぞお座りください。今年の夏はいかがお過ごしでしたか?」

お茶を用意しながら尋ねる志村先生に、中村さんは表情を明るくして答えました。

「じつは今年、仲間とかき氷屋巡りをしまして。休みのたびに、ちょっと遠くの人気店まで車を走らせて。宇治金時とか、台湾風のふわふわ系、フレッシュなフルーツと掛け合わせたかき氷とか…。SNSで話題の店を調べては、あちこち巡っていました」

「かき氷…。それは楽しそうですね。じつは私もこの前、お酒を飲んだ後、つい甘味を食べ過ぎてしまって。反省したところなんですよ(笑)」

湯気の立つお茶を差し出す志村先生に、中村さんは小さく会釈して受け取りました。

「ええ。ただ…喉にゼロゼロした、張り付いているような感じがあって。咳がでて、鼻もスッキリしない。サラサラした透明な鼻水がずっと気になる。

この時期、花粉ってあるんですかね。花粉症みたいな感じです」

イラスト:illustAC(一部加工)

「それは気になりますね。熱はありませんか?」

「熱はないです。でも、喉の奥に落ちてくるような嫌な感じ…。とにかく鼻喉のあたりがジュクジュクしている。蓄膿なのかな…」

そこまで一気に話すと、中村さんは湯呑みに口をつけました。

「…。温かいお茶なんて久しぶりに飲みましたよ。夏場は、がぶ飲みしたいから、冷たいものばかり選んで飲んでいたので」

両手で湯呑を持つ中村さんに向かって、志村先生は、言いました。

「中村さん。喉のゼロゼロ、もしかしたら原因はそれかもしれませんよ」

イラスト:illustAC(一部加工)

温かいお茶の効能

「ぜひ、今飲んだお茶の温かさが、胃腸に落ちていく感触を味わってみてください。そして今日からは、冷たいものを少し控えてみましょうか」

志村先生はそう言って、ゆっくりと切り出しました。

「肺」と「脾」

「痰が絡む咳と鼻水は、別々の症状のように思えますが、中医学ではどちらも『肺(はい)』の働きが乱れたサインとして捉えます」

「『肺』? 呼吸器のあの、肺ですか」

「中医学でいう『肺』は、呼吸だけでなく、免疫や皮膚、そして体内の水分管理という大切な役割も担っています。体中に必要な水分をすみずみまで届け、不要な水分を汗や尿として排出できるよう、調節をしています」

イラスト:もぱ

中村さんは、意外そうな顔をしました。

「今回の不調は、その『肺』が原因と? 肺炎なのかな…」

「違うんです、中村さん。夏って、体を冷やす要素がとても多い季節ですよね。エアコンによる冷気、冷たい飲み物のがぶ飲み、ビールにアイスクリーム…」

「あ…。かき氷…」

「そうです、かき氷。夏は、たまらなくおいしいですけどね。

ただ、冷たいものを摂りすぎると、まず、消化吸収を担う胃腸、中医学でいうところの『脾(ひ)』がダメージを受けます。すると、水分を処理する力が弱まってしまう。

こうして体内に溜った余分な水分が『湿(しつ)』となり、さらには粘り気を帯びた『痰(たん)』へと変わっていきます」

イラスト:五行図(もぱ作成)とillust ACを組み合わせて使用

「痰…。ゼロゼロですね」

「その痰が『肺』にたまると、咳と一緒に外へ追い出そうとして、痰の絡む咳が出ます。

さらに、『肺』の水分調節の力が弱まっているので、あふれた水分が鼻へ出れば、透明な鼻水として現れる。喉に張り付くような感じや、後鼻漏(こうびろう)のような症状が出る方もいます。あと人によっては、肌にジュクジュクとした炎症として出る方もいらっしゃいます。すべて同じ仕組みです」

「じゃあ、このゼロゼロしている根元の原因は、『脾』が受けたダメージというわけですか…」

「そうなんです。そこに、季節の変化も影響します。夏の終わりの寒暖差や、空気の乾燥。少しずつ進んでいく変化を『肺』が受け止めきれないと、夏の間にため込んでいた痰と湿が一気に表面化してしまいます」

男性は苦笑しながら、言いました。

「『肺』の弱り、『脾』へのダメージ、そして気候の変化…。トリプルパンチか。50代になっても、まだまだ体力は万全と、言い聞かせてはいても、体は正直だな…。じつは、先日はかき氷を食べた後に、少しお腹がゆるかったんです」

志村先生は頷きながら続けます。

「やはり、今夜からは温かい食事を心がけてくださいね。大丈夫です。原因が『脾』と『肺』からのサインだと分かれば、やるべき対処法も見えてきます」

今日からできる養生

「『脾』は、体の土台です。元気を作る工場みたいなものなので、負担をかけない食べ方は、思っている以上に、大切です」

胃腸をいたわる食事

「『脾』は大量の水や、冷えることを嫌います。喉が渇いていないのに、無理して飲むような飲み方は、よくありません。熱中症へ対策するつもりで、がぶ飲みをしてしまうと、『脾』にとっては負担です。

水分を飲むなら、少しずつ、ゆっくりと摂るように心がけてください。

無理にたくさん飲もうとしなくても、食事から水分を補うこともできますよ。スープやお味噌汁といった、温かいものを摂ると、よりいいです。

もちろん、暴飲暴食や、夜遅すぎる食事はいけません。消化にいいものを、腹八分目で、よく噛んで食べてください」

寒暖差から体を守る

「『肺』をいたわる養生は、外気との温度差から体を守ることがポイントです」

・上着を1枚羽織る、冷房を少し緩める
・寝冷えをしないように、温かい寝具を用意しておく

「これからは、朝晩の寒暖差が大きくなる季節です。こうしたわずかな変化を早めに察知して、先回りで対策をとることができるようになると、体調を崩しにくくなりますよ」

「もう、そんな季節か…。そういえば今日は、空が高くて、風が澄んでいたな」

志村先生は、微笑みました。

「季節の変化と共に、体は少しずつ順応しています。その歩調に合わせるように、生活も整えることが、健康のコツです」

秋のプチ養生|生姜、ネギ、陳皮を取り入れる

「中村さん、生姜やネギって、よく使いますか?」

志村先生からの問いに、中村さんは少し首をひねりながら答えます。

「生姜は、うどんの薬味くらいですかね。ネギなら味噌汁や鍋ものに、よく使います。それが何か?」

「じつは、『辛い』という味覚には『肺』の気を活発にする働きがあります。とはいえ、唐辛子のような強い辛味は、刺激が強すぎることもあるんです。生姜やネギの方が、体を温めながら巡りを助けてくれるので、おすすめですよ」

「なるほど。いつも何気なく使っていますが、そんな効果があるとは」

「はい。それと、もうひとつ。『陳皮』ってご存じですか? みかんの皮を乾燥させたものです」

「ああ、はい。知っています。七味唐辛子に入っていますよね」

「よくご存じですね! 陳皮には余分な『湿』を取り除く働きがあります。陳皮茶も手に入りますし、温州みかんの皮を乾かして自分で作る方もいるんですよ」

「へえ。陳皮ですか。オレンジピールなら、お菓子に使われているのをよく見かけて買うけど。今度、陳皮も試してみようか」

イラスト:illustAC(一部加工)

そこまで話した中村さんは、どこか楽しそうに目を向けました。

「じつは秋になったら、友人と和菓子巡りをする予定で。今年の夏は、体を冷やしてしまったようだから、反省をこめて、温かい善哉(ぜんざい)巡りにしよう。

食べ歩きって、その土地を歩くこと自体が楽しいから気に入っています」

「それはいいですね。歩くことは『気』の巡りをよくする、とてもいい養生になりますよ」

おわりに

季節の変わり目に起こる、ゼロゼロした咳。それは夏の間、冷たいものを受け止めながら働いてきた「脾」や「肺」からのサインです。

生活を変える必要はありませんが、冷たいお水を飲むときに、口の中でゆっくり温めてから飲みこんでみる。そんな小さな養生の積み重ねが、体を変えていきます。

これまで無頓着だった方でも、ご自身の体と対話ができるようになれば、これからの年月を健やかに過ごすことにつながっていきますよ。ぜひ続けてみてください。

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:CoCo美漢方神戸@cocobikobe0310
※ご相談のご予約はインスタグラムからお願いいたします。

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

●アイキャッチ画像/photoAC(一部加工)

 

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