すき焼きを食べる場面が、印象的に使われる映画がある。それが鈴木清順監督の作品『ツィゴイネルワイゼン』だ。内田百閒の短編小説『サラサーテの盤』を脚色。生と死、時間と空間、現実と幻想が玄妙に交錯する。
映画では、原田芳雄扮する中砂宅で、友人の青地(藤田敏八)とともに、酒を酌み交わしながら、すき焼きをつつく。その傍らで、中砂の妻、園(大谷直子)はコンニャクをちぎり続ける。
よく見ると、コンニャクは弾力のある玉コンニャクだ。エロティシズムの象徴として、コンニャクをちぎる音が使われているのだが、なにやら旨そうに見える。鈴木監督に、この場面について尋ねた。
「ひたすらちぎるという行為で、苛立つ女性の焼きもちも表現しました。実際、すき焼きにコンニャクを入れる地域もあるそうですね」
時折、グツグツ煮えるすき焼きが大映しにされる。赤身の牛肉に葱、焼き豆腐、椎茸に大量のコンニャク。すき焼きには火の通りが早いシラタキが一般的だが、趣向を変えて、コンニャクでしっかりした歯ごたえを楽しむのもいい。
※本記事は『サライ』2008年10月16日号の特集「すき焼き東西自慢」(取材・文/鳥居美砂)より転載しました。鈴木清順監督のご冥福をお祈り申し上げます。(編集部)