文/濱田浩一郎

京都、瑞泉寺の山門と石碑。(写真:photoAC)

切腹した豊臣秀次の首は刑場になぜ置かれたか?

大河ドラマ「豊臣兄弟!」において主人公の秀長の兄・豊臣秀吉は池松壮亮さんが演じています。その秀吉の甥にあたるのが、豊臣秀次です。同ドラマにおいて秀次を演じるのは、山田涼介さんになります。秀次は天正19年(1591)12月、関白に就任しますが、その4年後の文禄4年(1595)7月には謀反の疑いにより切腹に追い込まれました。秀吉は秀次の死だけでは満足せず、その一族を根絶せんとします。

秀次一族の惨殺の様は秀吉の一代記『太閤記』(江戸時代初期の儒学者・小瀬甫庵の著作)にも具体的に記されています。同年8月2日、京都の三条河原には「二十間四方」の堀が掘られていました。周りには鹿垣が廻らされ、橋の下には塚が築かれます。その塚に据え置かれたのが、先日、高野山にて切腹して果てた秀次の首でした。秀次の首は西向きに置かれます。なぜ、このようなことをしたのでしょう。

同書によると、秀次が寵愛していた20余人の「女郎等」に拝ませるためだったとあります。そしてそれは秀吉の命令だったと記されているのです。2日の朝、20余人の女性たちは、護送の役人らに荒々しく連行されます。肘を掴まれて、車に乗せられたのです。車には2・3人が同乗したとのこと。刑場に引き立てられたのは、秀次寵愛の女性たちのみならず、「若君」「姫君」もおりました。その哀れな様子に刑場に来ていた見物人は泣き出したと言います。その泣き声は辺りの物音も打ち消すほどでした。幼い若君や姫君は乳母が抱かず、母の膝に抱かれておりました。幼いので、当然、これから起こることも分かりません。よって、幼い若君や姫君は「乳母もこっちにおいで」と無邪気に話しかけていたようです。

車が三条河原について、人々が降ろされると、女性らは我先にと秀次の首の前に駆け寄り、伏し拝んだとのこと。秀次の正室の「一の台」(右大臣・菊亭晴季の娘)はこの時、34歳。秀次に謀反の意思などなかったが、増田長盛や石田三成の策謀によって、このような事態に陥った。よって最早、どうすることもできぬと彼女は覚悟を決めておりました。彼女は次のような辞世の句を詠んでいます。

「心にもあらぬうらみはぬれぎぬの つまゆゑかかる身と成りにけり」。

その他の女性たちも予め辞世の句を詠んでいました。

多くの人が見物を後悔したおぞましい処刑の実態とは

そしていよいよ処刑が始まります。見るからに非情そうな50歳くらいの「髭男」が美しい若君を犬の子のようにぶら下げて「二刀」刺したと『太閤記』は処刑の始まりを記します。その無惨な様を見た母やその他の人々、見物人は声を立てて泣きました。同書はそれを当然のこととしています。3歳になっていた姫君は母のお辰に抱き付き「私も殺されるの」と問うたと言います。それに対し、母のお辰は「南無阿弥陀仏と唱えなさい。父の関白殿(秀次)にすぐにお会いできますよ」と返したとのこと。

それを聞いた姫君は辿々しいものではありましたが「南無阿弥陀仏」と10遍ほど唱えました。しかし、非情にも処刑人らは「そのようなことをしておっても仕方ないわ」と言うと、母の膝から姫君を奪い取り、姫君の心臓を「二刀」刺して投げ捨てたのです。姫君はまだ死んではおらず、体は「びくびく」しておりました。その様を見て、母のお辰は正気を失うのではと思われましたが、落ち着いた様子で「先ずは私を殺しなさい」と西に向かって座ったのです。お辰の首もすぐに切り落とされたのでした。

これは処刑というよりも虐殺と言うべきでしょう。見物人は余りに惨たらしい状況を見て、肝・魂が消え果て、自分で自分が分からなくなるほどの錯乱状態になったと同書は記しています。このような痛ましい有様を見ることになるならば、見物に来なければ良かったと人々は後悔したのでした。

こうした秀次の一族の処刑の有様を見ていくと、思い出すことがあります。天正7年(1579)に行われた織田信長による荒木村重家臣の妻子らの処刑です。この時も荒々しい武士らによって、幼児とその母までが銃殺または刺殺されたのでした。処刑される女性らの天にも響くばかりの泣き叫ぶ声。この声や情景は見物人の心を消沈させ、トラウマを負わせたのです(信長の家臣・太田牛一が著した信長の一代記『信長公記』)。残忍な処刑というものが見物人に大きなトラウマを負わせるものであったことが分かります。

文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。

 

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