日本酒を調味料にすると以外な発見の連続
仙台伊達家御用蔵、勝山の12代目蔵元である伊澤治平さんは、フランスやイタリアでの食修行を経て日本に戻ったとき、日本酒はもっと進化しなければならないと痛感した。世界に羽ばたける品格のある酒として、酒質の見直し、飲み方、楽しみ方の提案を、この5年ほど本格的に取り組んできたという。
そして、強い旨み、つまりは甘さを取り戻し、淡麗辛口とは対極の味作りをして、いくつかの画期的な日本酒を世に送り出した。たとえば「䴇」(れい)は、まるでマスクメロンのような高貴な香りが鼻をくすぐる。ワイングラスから飛び出るその香りは、日本酒の概念を変えてしまうほどだ。
料理との合わせ方がまた斬新である。強烈な驚きは、”生ハムしゃぶしゃぶ”だ。市販の生ハムに、たっぷりと日本酒をつける。それだけで通常ストレートに感じる塩辛さが消え、生ハムの旨みだけがじんわりと口に広がり、長い余韻を残す。ワインとの組み合わせに勝る味である。
ソースやケチャップに日本酒を混ぜるといった、家でも簡単にできるアレンジも教わった。フライやソーセージ、野菜など、つけるものはなんでもいい。スプーン2~3杯の酒で、いつもの料理がいきいきとした味に蘇るから不思議である。
ただし、酒は旨みの強い純米酒に限る。そして、大きなワイングラスでしっかり香りを感じながら飲むのが条件だ。これらの手法を総称して、伊澤さんは「モダン酒道」と名付けた。この試みは多くのシェフに受け入れられ、日本のイタリア・フランス料理店における日本酒シェアを拡大中である。
この「モダン酒道」を実践してみれば、誰でも、かつてとは全く違う日本酒の味わいを体感できる。家庭やレストランにおいて、ワイングラスで日本酒を傾ける姿が当然となる風景を、遠くない未来のこととして予感することができるだろう。
生ハム×日本酒
生ハムは安価で乾いたものでもよい。皿に入れた日本酒と同じものを、まずは一口飲んでから、生ハムを1枚摘み上げる。
生ハムを小皿の日本酒に浸す。しゃぶしゃぶを作る感覚で、全体にたっぷり絡めること。生ハムがしんなりと柔らかくなる。
引き上げたら口の中へ。強い塩味よりも、旨みで構成された生ハム本来の味の輪郭がはっきりと浮かび上がってくる。
ピザ×日本酒
宅配ピザでも日本酒でおいしくなる。熱いうちに、トマトやチーズの上から、ティースプーンで4~5杯を目安にかける。
左は遠心搾りの技術を駆使した純米大吟醸「暁」1万800円(税込・720ml)。
問い合わせ:勝山酒造
電話番号:022・348・2812
勝山オンラインショップ:http://www.katsuyama-shop.jp/
伊澤治平さん
昭和42年、宮城県生まれ。元禄元年(1688)創業の勝山の12代目蔵元。ソムリエときき酒師の両資格を持ち、レストランプロデューサーでもある。
取材・文/浅妻千映子 撮影/福田栄美子
※本記事は『サライ増刊 美味サライ』2013 春号に掲載されたものです。
※記事の内容は掲載当時の情報です。