ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー

文・絵/牧野良幸

映画俳優のピーター・フォンダがこの8月に亡くなった。享年79歳。またひとり僕の憧れのヒーローが逝ってしまった。そこで今回は特別編としてピーター・フォンダの映画を取り上げたい。

ピーター・フォンダの代表作と言えば、間違いなく1969年公開の『イージー・ライダー』だ。アメリカン・ニューシネマの傑作である。しかし僕としては『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』を取り上げてみようと思う。

『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』は1974年公開の映画だ。僕は1958年(昭和33年)の早生まれだから、その時16歳、高校二年生である。

一概に1958年生まれというのは、ビミョーな年齢である。

なぜなら1969年の『イージー・ライダー』の公開時、僕は小学六年生だ。小学六年生がまさか映画館に『イージー・ライダー』を観に行くわけはない(早熟な子どもなら観たかもしれないが)。

『イージー・ライダー』と同じくアメリカン・ニューシネマの傑作とされる『明日に向かって撃て!』も映画館で観ていない。この年頃の子どもはテレビで『大脱走』を見て喜んでいるのがいいところ、映画館で洋画鑑賞というオトナの趣味はまだ芽生えていない。

これが悔しいのだ。

一つでも学年が上だったら『イージー・ライダー』も『明日に向かって撃て!』も観に行ったはずなのに。ちょっと生まれたのが遅かっただけで、60年代末あたりの傑作映画を見逃したことが悔しい。同じことは音楽にも言えて、ビートルズとかウッドストックをリアルタイムでギリギリ聴き逃したことが悔しくてしょうがない。いっそ小学生の低学年なら諦めもついたのに。

1958年生まれというのは、精神的な発達と60年代のポップカルチャーが微妙にズレるのである。

かくして70年代になると、シラケ世代と呼ばれる僕は、二歳年上の兄貴が、映画館で観た『イージー・ライダー』や『明日に向かって撃て!』のラストシーンを自慢げに語るのを羨ましく聞くしかなかった。たとえテレビの洋画劇場で見たところで、あとづけの知識がリアルタイムの経験に勝てるはずはない。

そんなコンプレックスを吹き飛ばしてくれたのが、1974年公開の『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』だったのである。先にも書いたように、その時僕は高校二年生。もちろん映画館に観に行った。

『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』も『イージー・ライダー』と同じくらいの衝撃的なラストシーンである。であるからして、これもアメリカン・ニューシネマに違いない。映画が終わった瞬間、

「僕もついにアメリカン・ニューシネマの洗礼を受けたゾ」

と長い間、喉につかえていたものが取れたのだった。

その『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』。ラストは衝撃的だけれども、ストーリーはいたってシンプルである。早い話がカーチェイス映画だ。

主人公のレーサー、ラリー(ピーター・フォンダ)はディーク(アダム・ローク)と組んで、スーパーマーケットから現金を強奪する。

計画はうまくいって、二人は逃亡しようとするのだが、そこにラリーが前夜にベッドをともにしたメリー(スーザン・ジョージ)が割り込んでくる。かくして3人の乗るシボレーと警察とのカーチェイスが始まった。

映画は全編でスリル溢れるカーチェイスが繰り広げられるが、メリーが巻き起こす騒動や、警察の指揮者フランクリン部長(懐かしのTV番組『コンバット』のビック・モローだ)のアウトローな振る舞いが描かれるので、観ていて退屈しない。

特にメリーの“アバズレぶり”はこの映画のキモで、ラリーとのぶつかり合いが見どころのひとつ。

メリーはベルボトムのジーンズに“ヘソ出しルック”、目をひんむいて悪態をつく姿はいかにもアバズレ女そのものだ。普通ならどんな男もタジタジになってしまうのだが、さすがにピーター・フォンダが演じるラリーは動じない。女の扱いもクール。こんなところも男としては、カッコいいなあと思ってしまう。

このラリーとメリーの関係が、今で言う“ツンデレ”か、そうでないのか、果たして3人は警察の追跡から逃れられるのか、期待を膨らませながら観客は映画に没入する。それがラストシーンの衝撃をいっそう高める。まさにアメリカン・ニューシネマの名作であるが、この映画もまたピーター・フォンダの存在なくしては成功しなかった作品だ。

【今日の面白すぎる日本映画・特別編】
『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』
製作年:1974年
アメリカ映画 配給:20世紀フォックス
カラー/93分
キャスト/ピーター・フォンダ、スーザン・ジョージ、アダム・ローク、ヴィック・モロー、ほか
スタッフ/監督: ジョン・ハフ 原作:リチャード・ユネキス 製作:ノーマン・T・ハーマン 製作総指揮:スーザン・ハート 脚本:リー・チャップマン、アントニオ・サンティーン 撮影:マイケル・D・マーグリーズ 音楽:ジミー・ハスケル

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

 

 

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