角切りの薩摩芋がたっぷり入った、名古屋「菊里松月」の鬼饅頭。

角切りの薩摩芋がたっぷり入った、名古屋「菊里松月」の鬼饅頭。

素朴な郷土菓子「鬼まん」

「鬼饅頭(おにまんじゅう)」をご存じでしょうか。愛知県民と東海地方の一部の地域で親しまれている、素朴な郷土菓子です。地元では略して「鬼まん」とも呼ばれます。

饅頭といっても、小麦粉と砂糖を混ぜ合わせた生地に、角切りの薩摩芋を加えて丸く蒸し上げただけのもの。多くの人が想像する饅頭のように、餡を生地が包んだ形ではありません。具の芋は生地に混じっていて、表面にも芋の角切りがゴツゴツと見えます。そのゴツゴツとした感じが、鬼やその金棒を連想させることから、この名が付いたといわれています。

また、生地の粘りが強く、生地の表面につやつやとした光沢があるのも特徴です。蒸しパンのように膨張剤を加えないため、ふわふわではなくもっちり。この食感も、独特の味わいを生み出しています。

考案したのは誰?

そもそも誰が考案したかなどは定かではありませんが、戦中戦後の食糧難のときに代用食として広まったという背景を持っています。米が貴重な時代に、手元にある食材を使って、よりおいしく食べようと工夫したのでしょう。

もともとは家庭でつくられていたものですが、今では県内のスーパーの店頭や、和菓子屋では必ず売られている菓子のひとつとなりました。名古屋市内には、早い時間に売り切れてしまう大変な人気店もあります。

子どもの頃から当たり前のように親しんできた菓子であるため、地元を離れるまで、「郷土菓子だとは知らなかった」という話もよく聞きます。愛知県を訪れたら、ぜひ食べていただきたい味のひとつです。

文/大沼聡子

 

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