バターと砂糖、小麦粉を練り合わせてオーブンで焼き上げた「ショートブレッド」というお菓子があります。イギリスはスコットランド地方で愛されている、伝統的な郷土菓子です。バターの香りが非常に濃厚なのが特徴で、それらに卵を加えて焼いたクッキーとは似て非なる味わい。
筆者は学生時代にイギリスの航空会社の飛行機を初めて利用したとき、機内の軽食で初めて味わいました。直方体のブロック状のショートブレッドは非常に食べごたえがあり、その美味しさに感動したことを思い出します。
先日、イギリスに暮らす友人が一時帰国し、お土産に持ってきてくれたのがこのショートブレッド。紅茶と共にいただきながら、ふと疑問が湧いたのです。ショートブレッドはなぜ「ショート」というのだろうと。
調べてみれば、ごく単純。ショートという言葉には、「脆(もろ)い、砕けやすい」という意味が含まれているのです。意訳すれば、「さくさくした食感」ということになるのでしょうか。「ショートケーキ」も同様の意味で、この言葉が使われています。
また、パンや菓子など加工食品によく使われる油脂のひとつに「ショートニング」がありますが、これにも「さくさくさせる」いう意味があるようです。
じつはショートブレッドには、「さくさく」でなければならない理由もあったのです。スコットランド地方では、婚礼のときに花嫁の頭上でショートブレッドを割って祝福する慣わしがあるそうです。滞りなく儀式を行なうためには、硬くてはいけない、すぐに砕けることが大切な菓子なのです。
友人がくれたショートブレッドも、口の中でほろほろと砕けて、非常に美味でした。
文/大沼聡子