文・取材/山内貴範

JR秋葉原駅~御徒町駅間の高架橋の下にある、国内の伝統工芸品などのショップを集めた商業施設の一角に、秋田県羽後町に本社がある協和精工の機械式腕時計「ミナセ」を取り扱う専門店「K CRAFTWORK JAPAN」が店を構えている。

この店では、腕時計に彫金(エングレービング)を施す“ウォッチエングレーバー”の金川恵治さん(56)の技術を目の当たりにできるのが魅力だ。工具を自在に操って、時計のケースはもちろん、ムーブメントなどに繊細な模様を刻んでいく光景に息を呑む。

彫金を施したミナセの腕時計を手にする金川さん。「ミナセの腕時計そのものが独創的なデザインなので、どんな彫金をしようかと考えるのが楽しいですね。創造力が搔き立てられます」

顕微鏡で拡大しながら、彫金を施していく。彫金に使用される工具は自作だ。

金川さんは、もともとイラストレーターとして活躍していた。その傍ら、時計蒐集の趣味が嵩じて、時計修理の技術を学んでいるうちにエングレービングに興味を持ったという。めきめきと技術を上げていくうちに、大手の時計商社から「ウォッチエングレーバーとして働かないか」と誘われたのだ。

商社には10年ほど在籍し、一時期はスイスで仕事をしようと思ったこともあった。そんなとき、ミナセの担当者から声がかかったという。

「ミナセは雑誌で名前を知っていたのですが、現物を一目見て、惚れ込みました。時計のケースがまるで“額縁”のように見えたのです。ぜひ、彫金を施してみたいと思いましたよ」

店内では、作業中の金川さんの手元をモニターで見ることができる。「最近、伝統工芸の先生からデザインや彫金の技法を学んでいます。日本古来の伝統的な文様をアレンジして取り入れていますよ」と、金川さん。

ミナセの腕時計は、その特徴的な形状から、七宝などの装飾を施しても綺麗におさまる。表現の自由度が高いことも魅力という。また、ミナセを製造する協和精工の社風にも共感するそうだ。

「大きいメーカーは、デザインでも、技術でも、守りに走ろうとします。ミナセは、どのブランドの腕時計にも似ていませんし、今までにないものを作ろうとする気概が溢れていると感じます」

金川さんとの運命的な出会いによって、ミナセにジャパンメイドの腕時計に相応しい魅力が、また一つ加わった。

18金のケースに繊細な彫刻が施された逸品。まるで伝統的な社寺にみられる装飾のようだ。金額やデザインは応相談。

なお、「K CRAFTWORK JAPAN」では、金川さんにその場で直接、彫金をオーダーできる。ぜひ、世界に一本しかない逸品を手にしたい。

【K CRAFTWORK JAPAN】
所在地:東京都台東区上野5-9-9 「2k540 AKI-OKA ARTISAN」F-1
電話:03-6803-2330
営業:11時~19時
休み:水曜
アクセス:JR御徒町駅から徒歩約4分、地下鉄銀座線末広町駅から徒歩約3分。
Webサイト:http://kcraftwork.jp/

文・写真/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。

 

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