「モダンで芋らしさもある‟小牧の型”を正攻法の造りで表現していきたい」

小牧兄弟の哲学を体現した代表銘柄4本。左から黒麹由来の力強いコクと酸のキレに王道感が際立つ『小牧』25度720㎖(以下同)、1509円。1909年の創業当時に分離された「江戸酵母」を使用し、“100年焼酎”の創造を試みた『一尚シルバー』、1733円。ドイツの白ビールに使うヴァイツェン酵母と白麹を掛け合わせ、ソーダ割りに向く軽快な飲み心地にまとめた『一尚ブロンズ』、1733円。ウイスキー用ポットスチルで蒸留した新作『銅釜小牧』1815円は、すっきりした甘みとクリーンな飲み口。

壁一面が緑の蔦に覆われた石蔵と、錆色の煉瓦煙突が初夏の青空に映えて美しい。建屋の裏には、鹿児島県最大の一級河川・川内川の岩と奔流の景勝が広がる。一見スコットランドのウイスキー蒸留所と見紛う眺めだが、「小牧醸造」は1909年(明治42)から家族で焼酎造りを続けてきた北薩きっての老舗蔵。全国区の芋焼酎ファンの間では、ロングセラーの『小牧』、蔵元の小牧一徳さん、小牧伊勢吉さん兄弟が立ち上げ、フラッグシップに育て上げた『一尚』の二大看板銘柄をもって知られる。

小牧一徳さん・伊勢吉さん

こまき・かずのり(右) 
1973年生まれ、53歳。五代目当主、代表取締役社長として焼酎部門の業務全般を統率。長男らしいおっとりと穏やかな人柄ながら、お酒が入ると焼酎愛を語って止まらない熱い一面も。
こまき・いせきち(左) 
1978年生まれ、47歳。川内高校卒業後に上京の後、2001年から家業の焼酎造りに加わる。’16年に3代目蔵元杜氏の伊勢吉を名乗る(旧名は尚徳)。現在は新規事業のウイスキー部門で陣頭指揮を執る。
仕込み蔵には、土中に埋まった54基の和甕が並ぶ。和甕は雑菌を呼びやすいため、洗浄や消毒の衛生管理も万全を期している。

蔵の仕込み水と同水系の穴川(川内川支流)は、絶滅危惧種の水生植物“カワゴケソウ”が自生するほど透明度が高く、天然の鮎や鰻も生息する。少年時代の兄弟の恰好の遊び場でもあり、「ここでバーベキューをして、よく叱られたなあ」と懐かしそうに話す伊勢吉さん。

だが同時に、豊かな水の恩恵ばかりでなく、大雨による水害で蔵に繰り返し災厄をもたらしたのも、目の前の川だった。

特に、兄弟が「あれが、すべてのターニングポイントだった」と口を揃えるのが、2006年夏の鹿児島県北部豪雨である。

ダムの放流で、新工場建設から間もない蔵は床上4mまで浸水し、最新の製造機器から7万本分の商品、発酵中の醪まで、すべてが流された。水害の半年前には、兄弟の精神的支柱でもあった母が亡くなる不幸にも見舞われていた。

「人生の中で、こうもきついことが続けて起こるのか、と。過去の醸造データや、当時は今より絶対視されていた蔵付き酵母を失ったダメージも大きかった。酒質が変わったら、もう飲んでもらえなくなるのではと不安でした」

時間と人がつくるテロワール

契約農家の祁答院稔さん(左)、田畑和成さん(中)、製造責任者の北野良治さん(右)。シラス台地(火山灰堆積土壌)の畑で談笑。

実際のところ、“小牧の味”は変わった。ポジティブな進化と言い換えてもよい。最も大きな変化は造り手の覚醒にあった。失意の中で兄弟ふたりは結束し、「皆を笑顔にする焼酎造り」を新しいミッションに掲げて蔵の再建を誓い合う。端的にいえば“量から質”“価値を上げる戦略”への転換だ。

「野性味のある昔ながらの芋焼酎とは真逆の、スマートで現代的な飲み口」を志向して、設備環境や衛生管理をクリーンに一新。製造計画に当たっては、焼酎以外の酒造りにも学んで知見を深め直した。とりわけ刺激を受けたのが、日本酒蔵に特有の「表現したい酒質に合わせて設計図を引くアプローチ」だという。

重厚な石蔵と煉瓦の煙突は、国の有形登録文化財の指定建造物。
ウイスキー蒸留棟では、秋田の先駆的な日本酒蔵、新政酒造から譲り受けた木桶を発酵槽に使用。
石蔵内のテイスティングルーム。屋久杉の原木を使ったカウンターが存在感を放つ。

「うちの焼酎でいえば、すっきりしつつも、ふくよかさ、香ばしさ、柔らかみのある芋らしさも死守したい。過剰な濾過に頼らず、麹菌や酵母の選択から醸造・蒸留の工程まで、きちんと設計した正攻法の造りで理想のバランスに近づけたいと考えました」

土中に埋めた和甕で醪を仕込み、手漉き濾過をした新酒と古い原酒のブレンドで柔らかく練れた飲み口に調和させる伝統技法は、蔵の焼酎造りの骨幹であり続ける。特に、和甕の気孔に棲みついた菌がもたらすアーシー(土の香り)なフレーバーは、小牧の焼酎の個性のありかを示す“財産”だ。

「さつま町のテロワール」を意識するようになったのも、“ポスト2006年”の変化という。地元の農家とパートナーシップを結び、米も芋も100%ローカル原料にシフト。生産者と綿密な連携を取りながら、新品種の栽培にも果敢に取り組んできた。「この土地での蔵の歴史や人のつながり、時間の連なりも含めてのテロワールであるということ。すべてが価値として織り込まれた焼酎とは、蒸留酒とは何かを求め続けたい」と、言葉に力をこめる一徳さん。

チャレンジの集大成として生み出されたのが、蔵の創業100周年に当たる2009年にリリースされた『一尚』シリーズである。焼酎の次代の100年を見据え、兄弟の名前から一文字ずつを取って命名した代表作。同じ町内で焼酎居酒屋『泰炭』を営み、小牧醸造の杜氏として『一尚』の造りも経験している東泰志さんは、「芋焼酎らしい甘みと香ばしさ、麹の旨味が溶け合うシルバーの完成度は素晴らしい」と頬をゆるませる。

2026年は新規事業のウイスキーの商品化が始まり、焼酎では珍しい20年古酒のリリースも予定。「物語を熟成させる蒸留所」の、次の100年に向かう歴史が始まろうとしている。

小牧醸造

住所:鹿児島県薩摩郡さつま町時吉12 
電話番号:0996・53・0001 
ホームページ:https://komakijozo.co.jp/

主人は元・小牧醸造の蔵人。新鮮な鶏刺しをソーダ割りで

炭火で表面を香ばしく炙った鶏刺しやレバーなど看板の鶏料理には、「ソーダ割りでも旨味が伸びる『夏の小牧』が抜群です!」
合鴨農法の米麹を使った『小牧 合鴨楽』はお湯割りで。
蔵と同じ町内でも緑豊かな山間に立地。
店主の東泰志さんは、杜氏職も含め14年間小牧醸造に在籍。「オープンで人間味があり、挑戦を恐れない」と、蔵の魅力を語る。

炙り家 泰炭

住所:鹿児島県薩摩郡さつま町柏原2749 
電話番号:0996・24・8883 
営業時間:18時30分〜24時 定休日:日曜 
交通アクセス:さつま町市街地から車で約5分。

取材・文/堀越典子 撮影/伊藤徹也

※『サライ』2026年8月号より

8月号特集は「本格焼酎」は風土で味わう

 

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