
「パートナーのにおいが気になって…」そう打ち明ける女性の声は、少なくありません。近寄るとふと鼻につく、におい。脱いだ服、枕。気になり始めると、あちこちで感じるようです。
そしてまた、男性自身も密かに自分の体臭を気にしている方は多いものです。毎日、お風呂には入るし、耳の裏まで石鹸で洗っているのになぜ?と悩んでいませんか。
加齢臭は「不潔」だから発生するわけではありません。中医学の視点から見ると、むしろ体が伝えるサインとして、読み取ることができます。本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生に、中国伝統医学の知恵から体の違和感について、そのサインを読み解いてもらいます。
今日は、夫のにおいが気になって訪れた奥様のお話です。
【今日のお悩みカード】
相談者:54歳 女性(パート・主婦)
主な訴え:夫(57歳)の体臭・加齢臭が気になる。本人も自覚あり。
「夫の気になるにおいは漢方薬でなんとかできますか?」
少し申し訳なさそうな表情で入ってきた女性は、開口一番、こう言いました。
相談者:「あの…夫のことで相談が。最近、においがすごく気になりまして。本人は毎日ちゃんと洗っているとは言うけど…。中医学や漢方薬で、なんとかなるものでしょうか?」
志村先生:「もちろんです。実は、そういうご相談、多いんですよ。中医学では、体が発するにおいは、その内部で起きていることの現れだと捉えます。だから、悪いにおいばかりではなく、例えば、赤ちゃんのほんのり酸っぱいような、いい香りもありますよね。あれも体の状態が外に出ている例です。ご主人のにおいは、どんな感じですか? もう少し詳しく教えてください」
相談者:「いわゆる、おじさんのにおい。加齢臭だと思います。普段、あまり汗をかかない人で、汗をかいた感じとは違います。夫が外から帰ってきたときにまず気になるし、最近は夫がソファーに座っているだけでも、つい気になって…。シーツや枕カバーは頻繁に洗濯しています。
本人も気をつけていますが、体から発するにおいはどうしたらいいものなのか…」
志村先生:「汗臭さとは違う、脂っぽいような、こもったような、においですね。詳しくご説明しますね」
加齢臭の正体
志村先生は、まず体の変化から説明を始めました。
志村先生:「若いころは、油っこいものを食べても、体がきちんと消化して、汗や排泄で余分なものを押し出す力がしっかりと働いていました。でも50代になると、その代謝の力は落ちてきます。つまり、『クリーニング機能』が追いつかなくなる。
中医学的に見ると加齢臭は、食べた物が大きく関係しています。若い頃と同じ食生活を続けていれば、処理しきれないものが出てきて、それが体内に溜まってきます。
『湿熱(しつねつ)』『食積(しょくせき)』、そして『ストレス』。これらが関わっていると考えられています」

「湿熱」とは
「『湿熱』とは、体内の余分な水分『湿』と『熱』が結びついた状態。いわば、生ものが高温多湿の場所で腐るのと同じです。
これは、もともと『脾胃(胃腸のこと)』が弱く、『湿』が溜りやすい性質や、体に『熱』がこもりやすい体に、飲食の不摂生や精神的ストレスなどが重なることで引き起こされます。季節的な高温多湿が加われば、さらに『湿熱』は助長されます」
「食積」
「『食積』とは、文字どおり『食べたものが積もっている』状態。消化が追い付かない、消化不良の状態ですね。これがさらに進んで滞留してしまうと、口臭や体臭になって出てきます。
『湿熱』も『食積』も、若いころなら体が問題なく処理できていたものです。ただ、食べ物は自分で選ぶことができますよね。体のにおいが変わってきたとしたら、食生活を始め、生活全般を、50代の体に見合ったものへ調整する時期がきたのかもしれません」
ストレスも、においの原因に「熱邪(ねつじゃ)」
志村先生:「要因として、もう一つ。『ストレス』も体臭と深く関わります。
情緒を司る『肝(かん)』の働きが乱れると『熱邪(ねつじゃ)=熱による邪気』が生まれ、多汗や、体臭につながることがあります。イライラや落ち込みが続くときは、要注意ですよ。
それに、『ストレス』は胃腸の働きも弱めます。さらに進めば、脂っこいものを無性に食べたくなる、という悪循環にもつながります。においのタイプを3つ紹介しましたが、実は、どれも根っこは共通しています。
・胃腸の働きを整える生活を送ること。
・ストレスを溜め込まずに、のびやかに過ごすこと。
そこが、解決の糸口になります」
においのタイプで、体の状態がわかる中医学の知恵
中医学では、においは五臓の状態を映し出すとも考えられています。以下のような傾向もあります。
・脂っぽい、動物的なにおい
ストレスの多い生活による「肝」の乱れ
・焦げたようなにおい
余裕のない日々に追われた「心」の乱れ
・花や果物のような甘いにおい
暴飲暴食による「脾(胃腸)」の乱れ
・魚が腐ったようなにおい
呼吸が浅く、潤い不足による「肺」の乱れ
・鼻につく、腐ったようなにおい
疲れが溜まりすぎたことによる「腎」の乱れ

志村先生:「もっとも、『うちの夫はこれだ』と断定するのは、なかなか難しいものです。
あくまで『こういう傾向がある』という話で、においだけで判断はできません。実際にお会いして、体の状態や普段の食生活と照らし合わせてはじめてわかることも多いので、今度はぜひ、旦那様もご一緒にいらしてください。胃腸の働きを助ける漢方薬もありますから、一緒に相談しましょう」
今日からできる養生|妻ができること
「ありがとうございます。日常でできることがあれば、教えていただけますか?」と奥様。
食事で気をつけること
志村先生:「まず、においを悪化させやすいものを知っておくことが大切です。その上で、日々の食事に取り入れられるものを増やしていきましょう。
・揚げ物
・脂の多い肉
・アルコール
・辛いもの
これらの摂りすぎは、『湿熱』や『食積』を招きやすく、体臭を強める一因になります。
でも、お酒の席や、スタミナをつけたい男性なら、好むものばかりですよね。これらを食べない、というよりは、食べるなら、その前後に胃腸の働きを助ける生活を意識しましょう。
反対に、消化を助けて体内をすっきりさせる食材としてはこちら。
・大根
・キャベツ
・パイナップル
・りんご
大根おろしや、キャベツの千切りなら、もうすでに日々の料理に取り入れているかもしれませんね。旦那様にちょっと意識してもらい、多めに摂るように心がけるといいですよ」

腸内環境と体臭のつながり
「発酵食品(味噌・納豆・ぬか漬け・ヨーグルトなど)を意識して増やすことも効果的です。
腸内環境が整うと排出がスムーズになるので、体臭が軽減することがあります。また、発酵食品には悪玉菌を抑えて善玉菌を活かす「整菌作用」があるとされています。これは体臭ケアの近道になるかもしれません」
本人の生活習慣で気をつけること
「食事以外にも、日常の習慣でできる養生もあります。こちらは、できれば旦那様ご本人に届けたい内容です。
・シャワーで済ませず、湯舟にゆっくり浸かる習慣を
汗をかくことで、「湿熱」を体の外へ押し出すことにつながります。特に、汗をかく習慣がない方は、湯舟に首まで浸かって、じんわりと温まることをおすすめします。
・冷たいドリンクの飲みすぎに注意
「冷え」は腸の働きを弱め、「湿熱」を招きやすくします。体を過剰に冷えさせてしまうことは避けてください。ただし、昨今の真夏の炎天下で過ごすなら、体内の熱を下げるためにも、冷たい飲み物を飲むことは必要ですよ。
・早食い・食べすぎも「食積」の大敵
ゆっくり食べて、腹七分を意識するだけで、胃腸への負担は減ります。ためしに、スマートフォンを見ながら食事をしてみてください。味をあまり感じなくなる実感が掴めるはずです。注意が別のところへ向いていると、よく噛まずに飲み込んでしまったり、満腹感を無視して食べすぎてしまったり。そういった食べ方は、思っている以上に胃腸への負担になります。
・ストレスを緩和する
ストレスは、真正面から受け止めるだけが対処法ではありません。受け流したり、後回しにしたり、うまくかわす知恵も、立派な養生のひとつです。また、家族や、仲間と囲む食卓は、「気」の巡りが良くなる機会ですから、大切になさってくださいね。

奥様は、少し笑いながら言いました。
「朝はお粥、昼はうどんとサラダ、夜は太巻きに味噌汁…そんな生活をしていれば、においも収まるんでしょうけど。それじゃあ夫がかわいそうですね」
志村先生は答えます。
「そうですね。食の楽しみを取り上げてしまったら、それがストレスになって、また体の巡りを悪くさせてしまいます。でも、普段から胃腸をいたわる生活を心がけていれば、脂っこい食事を食べたとしても、だいぶ違うものですよ」
おわりに
長年生きてきた体は、少しずつ変わってきます。50代になれば、誰もが感じていることではないでしょうか。加齢臭が気になり始めたなら、生活を見直すいいタイミングです。ケアを続けることはエチケットだけでなく、長く健やかに生きていく土台にもなります。
小さなサインが気になったときに、お互いの体に目を向けて気遣う。それは、これからも共に歩んでいくためにも、大切なことですね。
※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。
中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。
身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。
●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
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※ご相談のご予約はインスタグラムからお願いいたします。
●構成・文/もぱ(京都メディアライン)











