
到着するやすぐさま客席へ。前から9列目、ほぼ真ん中の席で音響と照明のチェック。
独演会に密着「下北のすけえん 春風亭一之輔ひとり会」本多劇場(東京・下北沢)
「なんで正月早々、俺は独演会やってんだよ。疲れてんだよ」
1月5日、独演会の開演前、楽屋でボヤキが止まらなくなった。当然、本気の文句にあらず。
「一之輔さんは客に媚びない。飄々としつつ会場の空気をぐっと掴む」と、杉江松恋さんの言う通り、いつでもどこでも喜怒哀楽を隠さない。毎度、しゃかりきにもならず、緊張も見せない。緩やかな空気を纏ったまま高座にあがる。これが一之輔流である。
小学校の落語クラブにはじまり、高校1年のときに浅草演芸ホールで落語に目覚め、大学の落研を経て今にいたる。
「趣味がないんです、昔っから。どれも飽きちゃって中途半端。落語だけですね、続いてるのは」
“円熟”という言葉は嫌い
一之輔さんにとっての落語は、「座ってお辞儀した瞬間から、また頭を下げるまでは何やってもいい」もの。だからマクラもアドリブ。瞬発力でアレンジもする。
「円熟? 成長が止まったみたいで嫌な言葉だなぁ。高座でもラジオでもずっとくだらないことを言っていたい。それが落語家の自由じゃないですか」

会場入り。寄席や落語会への移動は電車でひとりのときが多い。荷物もコンパクト。

客席から舞台の見え方を確認したのち、高座にあがり、手を叩き音の反響や照明の具合を確かめる。

出演者の名前が書かれた「めくり」も準備万端、出番を待つばかり。

楽屋に入ると、紺のパンツ、トレーナー姿のまま、まずは手洗いと豪快にうがい。

着物や帯、手ぬぐいは複数用意している。季節や噺、そのときの気分で選ぶ。

着替えの手伝いは弟子の役目。ほかに高座返し(演者の交代ごとに座布団を返す)も重要な任務。

二席終えた「仲入り」。楽屋に戻り着替える。


ラジオに密着「サンデーフリッカーズ」JFN系列(半蔵門のスタジオからオンエア)

日曜早朝の『サンデー・フリッカーズ』のほか、毎週金曜はニッポン放送で『あなたとハッピー!』を持つ一之輔さん。一之輔さん自身、中学時代からのラジオリスナーで、大人になった今は聴くのも喋るのも好きだという。
「ラジオと高座とコラムの仕事はリンクしていて、それぞれ勉強になる。当たり前ですが、同じネタでも高座とラジオとでは喋り方を変えている」と一之輔さん。
姿と所作が見えるか否かの差はあるが、高座もラジオも相手の頭の中で想像させるもの。視覚的でない分、言葉の選び方やリズム感で伝えている。ラジオも“一之輔話芸”に欠かせない存在だ。

スタジオ入り

新聞を読む→打ち合わせ

ブース入り

放送スタート

リスナーに直電など

ゲスト登場

おつかれさま
毎週日曜6時〜7時30分に放送中のFMラジオ『サンデー・フリッカーズ』(JFN系列)、通称「サンフリ」。一之輔さんとアシスタントの汾陽麻衣(かわみなみまい)さんで届けるニュース・バラエティ番組で、2010年秋にはじまり、放送回数は750回を超える。毎回ゲストを迎え、この日は体験ノンフィクション漫談のピン芸人「コラアゲンはいごうまん」さん。また、落語のショートバージョンを生披露するのも特徴だ。終了後は「今日の振り返り&次週のテーマ会議」を公式動画用に1時間ほど収録してスタジオを後にする。
生放送直後、一之輔さんに55の質問を投げてみた
Q1今の自分をひと言で?──ピーク。
Q2最近、高座で楽しいことは?──300人ぐらいの会場で8人くらいしか笑わないとき。マニアックというか笑いのツボが同じタイプが8人いるのかと楽しくなる。
Q3処世術は?──思っていることを顔に出す。
Q4自分を四字熟語で表すと?──厚顔無恥。
Q5座右の銘は?──命まで取られるわけじゃあるまいし。
Q6左右の視力は?──0.1ないくらいの近視。
Q7メガネのフレームはどこの?──秋葉原のガード下のメガネ屋さん。たしか、鯖江(福井県)のメーカーさんです。
Q8気負いがないような、素っ気ないような。それは幼少のころから?──高校あたりからですかね。期待されなくなって勉強もあまりできなくなってから。
Q9「売れている」と言われるのは?──一過性のような気がしてあまりうれしくない。
Q10今、いちばん力を入れたいことは?──読みかけの漫画を読み終えたい。ちなみに、いしいひさいちの『ROKA』シリーズです。
Q11ネタ下ろしの際、もっとも気をつけることは?──ゆっくりしゃべる。
Q12マクラは計算? それとも直感?──直感。
Q13客席の“空気が変わる瞬間”を感じる?──客席のことはわからないけれど自分が変わる。スイッチが入り、勝手にしゃべりはじめるってことがあります。
Q14同じ噺を続けてかけるのは好き? それとも嫌い?──好きじゃない。
Q15自分のクセで直したいところは?──爪を噛むこと。
Q16高座でいちばん怖い瞬間は?──怖いというか、中手(噺の途中で起こる拍手)が何度もくるのが嫌。
Q17終演後、まず何を思う?──ビール飲みたい。
Q18朝起きて最初に考えることは?──毎晩パジャマの裾が膝まで上がり、半ズボン状態になるのをなんとかしたい。
Q19楽屋で必ずすることは?──顔をペーパーで拭いたり、グズグズ言っている。
Q20いちばん好きな時間は?──やることを終えて本を読んでいるとき。最近読み終えたのは『正しすぎた人 広岡達朗がスワローズで見た夢』。
Q21怒ることは多い?──そんなに多くない。
Q22落ち込むことは?──ない。
Q23他人に誤解されやすい点は?──見た目。笑顔がない、怖いと言われがち。
Q24最近、照れたできごとは?──過度な“ウェルカム”はキツい。ただの着物おじさんです。
Q25自分の声は好き?──慣れた。付き合うしかない。
Q26愛用の手帳は?──手帳は「高橋」。
Q27手帳用のペンは?──フリクションで一番の細字(0.3㎜)の赤と青。
Q28ラジオは何歳から聴いている?──12歳から。電気グルーヴの『オールナイトニッポン』。
Q29ラジオの魅力は?──“ながら聴き”ができる点。生活の一部となるBGM。
Q30一朝師匠への感謝は?──採ってくれてありがとう!
Q31一朝師匠にいまだから言いたいことは?──もっと厳しくしてくれてもよかったのに!
Q32弟子に対してつい口を出してしまうことは?──(マクラを聴いて)本当にそれ、面白いと思っているのか。
Q33なるべく弟子に言わないようにしている言葉は?──辞めてしまえ。
Q34若手だったころ救われたひと言は?──二ツ目時代の勉強会で。客の前では褒めてくれるが、直接褒めてくれない一朝師匠が、「今日はよかった」と褒めてくれたこと。
Q35落語は救い?──友だち、ダンスパートナー的。
Q36「この人、才能がある」と感じる瞬間は?──受け答えが完結で無駄がなく面白いとき。
Q37愛用の時計は?──仕事でいただいた「グランドセイコー」。自分でベルトを替えてから愛着度が増した。
Q38スーパースターの現在を予想していた?──いっさいしていない。だからスーパースターじゃないって。
Q39人生のうち落語が占める割合は?──7割5分。あとは家族。仕事をすべて終え帰宅して、テレビを見ている家族を眺めながら、ひとりで缶ビールを飲むのが好きなほど、家族が好きだ!
Q40ライバルは?──走る新幹線。つねにヴァージョンアップしているから。負けたくない。
Q41自分を動物にたとえると?──やる気のない熊。
Q42自分の落語で足りないと思うことは?──流動的で固まっていないところ。
Q43落語に自由を感じる?──つねに。
Q44常連客を意識する?──はい。
Q45お客さんに持ち帰ってほしいものは?──ゴミ。プログラムやチラシは絶対に持って帰れ。
Q46影響を受けた芸は?──ドリフターズ。
Q47型を破ることについて?──リスクはつきもの。でも恐れず、覚悟して向き合いたい。
Q48SNSはどんな存在?──忙しい合間のひまつぶし。
Q49批判的な声は気になる?──気にするけれど引きずらない。エゴサもする。
Q50将来の夢は?──死ぬ直前まで高座でしゃべりたい。
Q51変えたくないことは?──くだらないことをずっと言っていたい。
Q52もしも落語家でなかったら?──売れない放送作家。
Q53落語とは?──お風呂の湯。入っていると気持ちいい。
Q54寄席とは?──足湯。
Q55独演会や二人会とは?──スパ。
取材・文/角山祥道 撮影/キッチンミノル
※『サライ』2026年4月号より












