爆死を選んだ松永久秀(演・竹中直人)。(C)NHK

ライターI(以下I):大河ドラマの記事をまとめている当連載は、2020年の『麒麟がくる』から始まっています。吉田鋼太郎さん演じる松永久秀が切腹したのは、『麒麟がくる』第40回(https://serai.jp/hobby/1004735)だったのですが、当時、こんなやり取りを交わしていました。

I:大和にいる松永久秀がどういう道を辿っていくのか楽しみです。爆死しますかね?

A:松永久秀の最期に関しては史実がどうのこうのを度外視して派手に爆死させてほしいですね。吉田鋼太郎さんがどう爆死シーンを演じるのか楽しみですし。

編集者A(以下A):懐かしいですね。結局『麒麟がくる』では、松永久秀は派手に切腹したものの、「爆死」ではありませんでした。当時の「願い」が6年後の『豊臣兄弟!』で実現するとは、本当に感無量です。

I:「爆死」が史実かといえば、実際には完全にフィクションなのですが、私たちのように「爆死」を期待する視聴者もいたでしょうから、今回の演出に拍手喝采した視聴者も多かったのではないかと思います。

A:当欄では「大河ドラマは壮大なるエンターテインメントである」と年に数回発信しているのですが、今回はその面目躍如という演出になりました。演じたのが1996年の『秀吉』で秀吉を演じた竹中直人さんで、劇中のやり取りの中で交わされた「戯言であってもかような夢があっていい」というのは、「夢」がテーマのひとつだった『秀吉』へのオマージュだったと思われ、ちょっと目頭が熱くなる瞬間でした。

I:あれから30年。来し方を振り返れば、それぞれの脳裏に去来するものがあるのでしょうね。ところで、『豊臣兄弟!』では第17回の「武田信玄が餅をのどに詰まらせて死去」と「切腹した浅井長政の介錯をお市の方が務める」という演出について、SNSなどでも賛否が割れました。

A:「大河ドラマは壮大なるエンターテインメント」ということでいえば、「史実か否か」ということはあまり問題ではなくて、単純に「おもしろいか、おもしろくないか」「リアリティがあるかないか」「説得力があるか」ということに帰結するのだと思います。

I:松永久秀の爆死という展開は、「単純におもしろい」ですし、痛快でした。

A:そのあたりの線引きで、制作陣の考えと視聴者の考えが異なることがあって、それが第17回に重なったということなのでしょう。

松永久秀と「爆死」について

秘蔵の「平蜘蛛の釜」を小一郎たちに見せる松永久秀。(C)NHK

I:さて、せっかくですから松永久秀の最期がどのように記されてきたのか、ざっくり振り返りたいと思います。『信長公記』では、「秋田城介信忠、佐久間、羽柴、惟任、惟住諸口仰せ付けられ、信貴の城へ攻め上げられ、夜責にさせられ、防戦、弓折、矢尽、松永天主に火を懸け焼死候」と記されています。

A:「松永天主に火を懸け焼死候」ということで「爆死」を想起させる記述はないんですよね。ところが江戸時代初期に編纂された『川角太閤記』では、「平蜘の釜と我等の頸と二つは信長殿御目に懸まじきとて、みじんこはいに打わる言葉と少も相たがわず頸は鉄炮の薬にてやきわり、みじんにくだけければ、ひらくもの釜と同前なり」と記述されています。「微塵粉灰に打ち割る」という表現に加えて、鉄炮の薬で微塵に砕けたとありますから「爆死」を想起させる内容ではあるのですが、この記述はさすがにフィクションだといわれています。

※平蜘の釜 原文ママ

I:なるほど。

A:そして、幕末の志士らが愛読したといわれる頼山陽の『日本外史』では「久秀、火を放ち、愛する所の茶鐺を抱き、自ら焼殺す」という風に記述されます。これは歴史読み物なのですが、これらの記述が、盛られていっていつしか「爆死」したという説が流布されるようになったようです。

I:なるほど。『豊臣兄弟!』では、秀吉(演・池松壮亮)と小一郎(演・仲野太賀)兄弟が松永久秀を説得に行くという設定になりました。平蜘蛛の釜にかこつけて、信長(演・小栗旬)が久秀のことを助けたかったのは事実かなと感じます。

A:劇中では、秀吉兄弟が説得に行っていますが、実際には松井友閑(ゆうかん)が足を運んでいるようです。それにしても室町時代を通じて、興福寺が「守護」として治められた大和の国ですが、戦国の動乱の中で松永久秀が手中におさめます。筒井順慶(演・永沼伊久也)の筒井氏はもともと大和の土豪で、越智氏と勢力争いを繰り返し、松永久秀が領主となってからはこれと対峙します。反目していた筒井順慶に大和を与えるということになれば、普通怒りますよね。

I:信長はそういう人間の機微に理解が足りないのかもしれないですよね。積みあがっていく部下の不満に無頓着すぎたのかもしれません。現代のあらゆる組織にも通底する問題です。しかし、劇中では、実は、名器「平蜘蛛」は、端から信長のもとにあったかのような演出でした。

A:松永久秀が言っていたではないですか。それも含めて、「何が本物か、何が偽物か。そんなものはどうでもいい」、つまり「何が史実か、何がフィクションか。そんなことはどうでもいい」ってことだと受け止めました。

I:なるほど。とにかくおもしろくって、リアリティのあるストーリーで、視聴者をわくわくさせてほしいですよね。

【次ページは「鉄甲船の海戦が見たい!」「信長はなぜ離反されるのか?」】

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