ジャパニーズウイスキーが新たな隆盛の時を迎えている。蒸留所は全国に115を数え、さらに増える予測だが、その多くはウイスキー造りに情熱を抱く小規模な生産者たちだ。クラフトマンシップと風土と時間が融合して生まれる、この魅力的な酒の最前線を追った。

錦江湾と桜島を望む高台から名焼酎蔵がシェリー古樽に挑む
眼前に桜島を見据える丘陵地。鹿児島市内の中心地から車で30分とは思えない標高400mの山間に御岳(おんたけ)蒸留所はあった。運営するのは本格焼酎の「宝山(ほうざん)」で知られる弘化2年(1845)創業の西酒造。およそ180年という歳月の中で磨き抜かれた焼酎造りの経験をバックボーンに、2019年からウイスキー製造に参入した。
「私たちが目指すのはきれいで香り高く、それでいて味わい深いウイスキーです」と説明するウイスキー醸造責任者の眞喜志康晃さん。

そのために探し求めたこの場所は夏でも冷涼な気候で、毎分1000Lの天然水が湧く。この水はミネラル分を含みすぎない軟水。やわらかな水質がウイスキーに軽やかな口当たりをもたらす。
見えない声に意識を向ける

まずはこの豊かな仕込み水を用いて麦芽を粉砕していく。
「最初に粉砕した粒のサイズによって大、中、小の3種に大別します。ハスク(大)、グリッツ(中)、フラワー(小)の比率がその後の発酵において多大な影響をもたらすため、そのバランスを注意深く調整しています」
御岳蒸留所では主に二条大麦をもとにしたノンピート麦芽を用いる。麦汁を発酵させる際に加える酵母には、西酒造の研究室で培養された独自のディスティラリー酵母を選ぶ。一般的なウイスキー造りにおいては麦芽の発酵は48〜72時間ほどとされるが、ここでは発酵槽5基を駆使して移し替えながら、実に約120 時間、日数にして5日間かけ、自然でゆるやかな発酵を促す。
「我々の仕事はもろみの品温管理と徹底した掃除です。健全なもろみ無しでは、私たちが目指すウイスキーには到達できませんから。そのため、日々、目に見えない微生物の環境を整えてあげることに心を砕いています」


丁寧に、時間をかけて発酵を見守ることで生まれたウォッシュ(もろみ)を2基のポットスチルで蒸留していく。蒸留においては、ヘッドがまっすぐなストレート型の初留器、ヘッドの下部がやや膨らんだ形状をしたバルジ型の再留器を併用する。同蒸留所ではフルーティで軽やかな酒質を理想とするため、どちらもラインアームは細く、上向き。そして発酵同様、蒸留においても速度は遅めに設定する。こうしてじっくりと、発酵由来の香りだけを取り込む。

焼酎造りの知見を活かす
熟成はシェリー樽がメインで、大半をオロロソシェリー古樽のファーストフィルで揃える。スペインまで足を運び、実際に樽の品質を確認した上で取り寄せる力の入れようだ。現在はシェリー樽のほか、アメリカンホワイトオーク新樽、国産のミズナラ、サクラ、クリの樽もストックし、今後のウイスキー造りに活用する見通しだ。
熟成庫を見学させてもらうと、特注のパレットを備えたラックに樽を寝かせて置くという他で見ない積み方に驚かされた。

「樽の呼吸を、いかにストレスなくスムーズにさせるか。熟成は最低でも3年、物によっては5年、10年にわたります。エコノミークラス、ファーストクラス、どちらに座ったほうが良い時間を刻めるか、という観点で考えました」
この熟成方法は同社が手がけるウイスキー樽熟成の焼酎「天使の誘惑」の貯蔵における知見を活かしているのだという。
ウイスキー造りを始めて10年に満たない新星とは思えない圧倒的なスケール感。一貫したウイスキーへの思いは、まっすぐに桜島の主峰・御岳と向き合っていた。
この地で追求するのはきれいな酒質、発酵由来の香りと華やかさ



御岳蒸留所

鹿児島市下福元町12300
電話:099・296・4627
見学不可(カスクオーナーは可)。
https://www.nishi-shuzo.co.jp/ontake/
取材・文/山田祐一郎 撮影/磯畑弘樹












