「遠江国」という言葉を見て、何と読み、どの地域を指すかわかるでしょうか? 歴史好きにはなじみのある名ですが、現在の地名ではないため、考え込んでしまう人も多いでしょう。

遠江国は、現在の静岡県西部にあたる旧国名です。東海道に面し、三河(現在の愛知県東部)や駿河(現在の静岡県東部および中部)、信濃(現在の長野県)と接するこの地は、古くから交通と軍事の要衝でした。

戦国時代には今川氏、徳川家康、武田氏、さらに豊臣政権とも深く関わり、天下の行方を左右する重要な地域となっていきます。

この記事では、「遠江国」についての知識を深めていきましょう。

「遠江国」の読み方と名前の由来

まずは、読み方から確認しましょう。

「遠江国」の読み方は……
「とおとうみのくに」です。

現在では「遠州(えんしゅう)」の名のほうが親しまれているかもしれませんが、古くは「遠淡海(とおつおうみ)」とも書かれました。この名は、一般には浜名湖を「遠つ淡海」、すなわち「遠くにある淡水の湖」とみたことに由来するとされています。

現在の浜名湖

これに対して、琵琶湖は都に近いことから「近つ淡海」と呼ばれ、のちの近江国(現在の滋賀県)の名につながりました。

ただし、遠江国の中心は現在の磐田市周辺であり、浜名湖は国の西寄りに位置します。そのため、国名のもとになった「遠淡海」は、磐田付近に広がっていた潟湖ではないかという説もあります。とはいえ、いずれにしても「水辺の地形」が国名の由来に深く関わっていることは確かでしょう。

戦国時代の「遠江国」の変遷

遠江国は、古代から東海道の要地として栄え、中世には荘園や御厨が広がる豊かな地域でした。東国と西国の境目にあたることから、戦国時代になると有力大名たちが争う舞台となります。

戦国前期に遠江を押さえたのは、駿河を本拠とする今川氏でした。今川氏親の時代から遠江への進出が本格化し、やがて遠江全域をほぼ支配下に収めます。義元の代にはその勢力は最盛期を迎え、三河まで含めた広い領国支配が実現しました。

ところが、永禄3年(1560)の桶狭間の戦いで今川義元が織田信長に討たれると、遠江の情勢は大きく揺らぎます。今川氏の支配は急速に弱まり、これまで従っていた国人たちの離反も相次ぎました。ここで台頭してくるのが、三河の徳川家康です。

家康は、永禄11年(1568)から遠江へ本格的に進出し、翌年には今川氏真が立てこもる掛川城を開城させます。こうして今川氏は事実上滅亡し、遠江は家康の勢力圏に組み込まれていきました。さらに元亀元年(1570)、家康は居城を岡崎から浜松へ移します。これは、遠江経営を本格化させる決断であり、のちの家康の飛躍を考える上でも大きな転機でした。

現在の浜松城

その後の遠江は、家康と武田信玄・勝頼父子との激しい攻防の舞台となります。三方ヶ原の戦い、高天神城や二俣城をめぐる争いなど、遠江はまさに戦国の最前線でした。

信長とのつながりは?

ここに織田信長との関わりも見えてきます。信長は桶狭間で義元を討ち、そのことで遠江をめぐる勢力図を大きく塗り替えました。さらに家康と同盟関係を結ぶことで、遠江は織田・徳川連携の重要な後背地となっていきます。

つまり遠江国は、信長が直接支配した地ではないものの、信長の勝利と戦略が大きな影響を及ぼした土地だったといえるでしょう。

秀吉とのつながりは?

では、豊臣秀吉の時代にはどうだったのでしょうか? 秀吉自身が遠江を直接治めたわけではありませんが、天正18年(1590)、小田原攻めののち、家康が関東へ移されると、遠江には豊臣系大名が配置されます。浜松城には堀尾吉晴、掛川城には山内一豊、横須賀城には渡瀬繁詮、久野城には松下之綱が入りました。これは、秀吉が東海の旧徳川領を再編した結果です。

この時期の遠江で重要なのが、太閤検地をはじめとする新たな支配の仕組みが進められたことです。中世的な支配から近世的な領国支配へ移っていく転換点として、遠江もまた秀吉政権の影響を強く受けたといえるでしょう。

最後に

「遠江国(とおとうみのくに)」という名の奥には、水辺に由来する古い国名の面白さだけでなく、信長・家康・秀吉の時代が交差する歴史の厚みがあります。大河ドラマの時代背景をより深く味わう上でも、ぜひ知っておきたい地名のひとつといえるでしょう。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/菅原喜子(京都メディアライン)
肖像画/ぐう(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)
『日本歴史地名大系』(平凡社)

 

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