
腰痛で病院に行っても「骨に異常なし」と診断され、湿布・痛み止めといった対症療法、あるいは「年齢のせい」といった対応をされる。この痛みを抱えたまま何年も過ごすしかないと、慢性腰痛に悩まされる多くの人が諦めてしまっているのではないでしょうか。
理学療法士で「痛み改善」のスペシャリスト・松田圭太さんによると、その考えは古いといいます。日々進化する医学によって、腰痛の原因の研究も進み、治療法もアップデートされています。
松田さんの著書『腰痛は医者には治せない:2人に1人が「筋肉」「関節」が原因!理学療法士の神ワザ治療』(小学館)では、病院(画像診断)では見つけられない腰痛の本質的な原因と、本気で完治を目指すための具体的なメソッドを提示。理学療法士として医療現場の最前線で患者と向き合い続けてきた松田さんの経験と、最新の医学的エビデンスに裏付けられた完治を目指す治療法が紹介されています。
そこで、今回は『腰痛は医者には治せない』から、世界が認める最新の治療法「運動療法」についてご紹介します。筋トレとは違い、「正しい体の動かし方」をすることが腰痛には効果的です。
指導/松田圭太
運動療法は世界で研究が進む、痛みに効く治療法
「運動療法」とは、体の一部や全体を無理のない範囲で動かすことで、痛みをやわらげたり、体の動きを回復させたりする治療法です。現在世界中で研究されていて、大規模な研究では「運動をすると慢性的な腰痛が減る」ことがわかっています。(※1)
日本の慢性痛に関する報告書『慢性疼痛診療ガイドライン』(2021年)でも3か月以上続くような痛みには、まず「運動」を中心に考えることが大切だとされています。(※2)
「運動療法」を初めて聞いた! と思う方もいるかもしれませんが、近年定着した「ピラティス」も、日本人には親しみのある「ラジオ体操」だって運動療法の一例です。
(※1)Hayden JA, et al. Exercise therapy for chronic low back pain. Cochrane Database Syst Rev, 2021.
(※2)矢吹 省司.慢性疼痛の治療戦略―慢性疼痛診療ガイドライン2021のポイント.日本リハビリテーション医学会誌,2021.
運動すればするほど、筋肉がゆるんで痛みもゆるむ
「運動療法」が効果的だと考えられている理由は、弱っている筋肉を鍛えることで、反対側の硬い筋肉が自然とゆるむからです。この理論の基本にあるのは、神経生理学で「相反神経抑制(そうはんしんけいよくせい)」と呼ばれるもので、100年以上前から提唱されていて、(※3)運動制御の基本原理として知られています。
たとえば肘を曲げるとき、力こぶの筋肉(上腕二頭筋)が縮みます。このときに、二の腕の裏側の肘を伸ばす筋肉(上腕三頭筋)は自動的にゆるむように神経が働きます。両方が同時に縮んだら、肘は動きません。
この「相反神経抑制」を腰痛改善に当てはめてみます。たとえば腰の後ろ側(背中の筋肉)が硬くて痛みを出しているときには、反対側のお腹の筋肉を鍛えます。そうすることで、背中の緊張が自然にゆるんでいきます。
このように「痛みをとるための運動療法」とは、体の仕組みを利用した、実にシンプルな治療法なんです。ゆるめるだけなら他人の手を借りることもできますが、鍛えることは自分で体を動かすしかありません。
でもそれこそが痛みをとるためのもっとも信頼できる治療法なのです。
(※3)Sherrington C. e Integrative Action of the Nervous System. Yale University Press, 1906.
「ゆるめる」「鍛える」「動かす」――「MSMメソッド」理論
私の提唱する「筋肉をゆるめる、鍛える、全体を動かす」理論を「MSMメソッド」と名づけましたが、これも「運動療法」の一例です。
先に挙げた『慢性疼痛診療ガイドライン』でも実際の具体的な方法についてはまだ確立されていないとあるように、非常に効果的だと認められながらも、体系立てたものは世界を見てもありませんでした。そのため、自分で考えたというわけです。
「MSMメソッド」は、【Mobility:ゆるめる】【Stability:鍛える】【Movement:動かす】の3つの療法を独自に組み合わせることから構成されています。痛みを解消するために筋肉を「ゆるめて、鍛える」働きかけについては、さまざまな症状の治療法で説明をしてきたので理解いただいていると思いますが、大事なことはこの順番です。
1 過労筋をゆるめる(Mobility)
2 不労筋を鍛える(Stability)
3 全体を動かす(Movement)
の順に治療することが必須で、運動が単発になってもいけません。
「ゆるめて、鍛える」運動効果で、1つ1つの筋肉を動かせるようにした上で、全身の筋肉が一緒に働けるように仕上げます。連動して全身が使えるようになると、痛みを一生感じない“10代の体”に戻れるようになります。
運動療法=筋トレではない。体のクセを直すこと
この「MSMメソッド」を実践する上で注意点があります。それは「運動療法=筋トレ」ではないということ。
ポイントは「正しい場所に、正しい量を、正しい方法」で実践することです。
痛みを抱えている人は、そもそも「正しい体の動かし方」ができていないのです。自己流の体の動かし方のクセが身についてしまっています。ですから、「正しい場所」が動いているかを特に注意してください。
よくあるパターンは、動かすべき部位が正常に動かないため、普段から使い慣れている筋肉で運動しようとすることです(これを「代償動作」と呼ぶ)。適当に運動しても、腰痛を治すことはできません。
※「MSMメソッド」は株式会社Medical Book Japanの登録商標です。
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『腰痛は医者には治せない:2人に1人が「筋肉」「関節」が原因!理学療法士の神ワザ治療』
著者/松田圭太
小学館 1760円(税込)

松田圭太(まつだ・けいた)
理学療法士、整痛院ふっか総院長、慢性疼痛徒手技術「MSMメソッド(R)」指導者。
理学療法士として医療現場に長年携わった経験から、慢性腰痛・肩の痛みなど“3年以上続く痛み”に特化、運動療法と認知行動療法を組み合わせた「整痛院ふっか」を立ち上げる。医療機関や整体に通っても改善しなかった人が国内外から来院、のべ5万人を施術。さらに全国の医師・理学療法士・柔道整復師・整体師などの治療家が学ぶ慢性疼痛に特化した治療技術「MSMメソッド(R)」をのべ6万人に指導。科学的根拠(エビデンス)に基づいた運動療法と徒手療法を統合した独自アプローチは、整形外科クリニックのリハビリにも導入されている。自身が校長を務める、日本最大級の疼痛治療家コミュニティ「疼痛治療カレッジ」には4000名以上のプロの整体師・マッサージ師などが参加。治療家の間では「先生の先生」と呼ばれる。その医療福祉分野での活動が評価され、2025年「東久邇宮文化褒賞」を受賞。今春、初の著書『腰痛は医者には治せない』を上梓。株式会社Medical Book Japan代表。「MSMメソッド」は株式会社Medical Book Japanの登録商標です。











