心躍る花の季節が到来。日本列島を覆ったモノクロームの冬景色が、南から北へ駆け足で彩られていく。そんな花の便りを聞くと、どこかに出かけたくなるもの。そこで選んだのが鉄道旅。桜、菜の花、ラベンダーと、春から初夏にかけて咲き誇る花の名所を鉄路で訪ねてみたい。

満開の桜のトンネルを抜ける津軽鉄道・芦野公園駅付近の情景。流れゆく春のひとときに列車からカメラを向ける。写真/中井精也

案内してくれたのは、独自の視点で全国の鉄道と日本の情景を撮影してきた、鉄道写真家の中井精也さんだ。鉄道旅と花の魅力を中井さんはこう語る。

「春になると、ピンクに黄色、オレンジ、青やラベンダー色があったりと、各地の色とりどりの花が鉄道を彩ってくれます。鉄道と日本の美しい風景との関わりを撮りたいと思っているので、華やかな彩りが溢れ出すこれからの季節は大好きです」

なかでも、桜には特別感があるという。

「桜の時季は、じつは花が咲いているところ以外はあまり色がなく、枯れた景色が広がっていたりします。そこに桜が1本咲いただけで一気にゴージャスになる。そういう特別感というのは、やっぱりたまらないですね。3月中旬あたりになると南国から開花が伝えられ、関西や東京でも開花宣言、ゴールデンウィーク前に東北、5月になると北海道と、満開が北上していきます。桜を追っていると日本は広いなと思います」

菜の花と桜の花吹雪の共演。旅情に加え花の名所の空気感まで伝わってくるのが中井さんの「ゆる鉄」だ。写真は真岡鐵道北真岡駅〜西田井駅。

花見酒は鉄道旅の特権である

花を見に行くだけであれば、クルマがあれば移動も便利だ。そこを、あえて鉄道で向かう理由とは何だろう。

「ただ目的地を目指すだけではなく移動自体を楽しむという、鉄道ならではの楽しみがあります。座席でお弁当でも食べながら車窓から花を愛でる。そうそう、クルマだとお酒は飲めませんが、列車だと花見酒もできますよね」

途中下車も、鉄道旅ならではの楽しみだ。

「桜の駅などは大人気ですが、その途中にも素敵な駅があったり、手前の駅にいい桜があることもあります。出回っている情報だけにとらわれず、自分だけの花の風景が見つけられたら、満足感の高い旅になるのではないかと思います。ただし、ローカル線の本数はどんどん少なくなっているので、途中下車すると次の列車まで数時間待たされることもあります。あらかじめ、入念にプランを立てておく必要はあります」

車窓越しに写真を撮るコツ

車窓越しに花の絶景を見たら、写真に撮りたくなる。SNSに投稿する人も多いだろう。車窓撮影のコツを中井さんに聞いた。

「列車から花を撮るときに、カメラやスマホをガラスにくっつけて撮ると、どこから撮ったのかわからないじゃないですか。そんなときは窓枠を入れるんです。窓枠を入れて風景を撮ると、それは車窓の写真になります。せっかく鉄道に乗って写真撮っているわけですから、車窓を額縁だと思って撮るといいと思います」

車窓写真を撮るときは窓枠を入れて撮ると、鉄道旅の臨場感が伝わる。「窓は額縁」を心得るべし。JR肥薩線真幸駅にて。

車窓から花見ができるのが、鉄道旅の醍醐味だ。

「車窓を眺めながら、あの山に山桜があるとか、あそこに菜の花畑が見えるとか、もう宝探しのように車窓にいろいろな色彩の花を探す、そんな旅をしてみてください。春の宝探しです。花だけでなく、一面に土筆がワーッと生えていたり、そういうワクワク感を列車に乗って探す喜びを、ぜひ皆さんにも味わってほしいです」

案内人/中井精也(なかい・せいや)さん(鉄道写真家)

鉄道車両のみならず、鉄道にかかわるすべてのものを独自の視点で撮影。現地に吹く心地よい風が伝わってくるような「ゆる鉄」というジャンルを確立。著書に『ゆる鉄絶景100 中井精也写真集』など多数。

取材・文/宇野正樹 写真/中井精也

 

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