
ライターI(以下I):この大河ドラマの満喫リポートは、2020年の『麒麟がくる』から始まっているのですが、これまででいちばん納得できない事態が起きてしまいました。まだ第8回だというのに、小一郎(演・仲野太賀)の幼馴染にして、直近ではいよいよ祝言を挙げようとしていた直(演・白石聖)が亡くなってしまいました。こんなに悲しい出来事はありませんし、どうして? という思いがぬぐえません。
編集者A(以下A):珍しいですね、そこまで怒りを前面に押し出すとは。
I:私は、寧々(演・浜辺美波)と直、藤吉郎(演・池松壮亮)と小一郎のかけあいを楽しみにしていました。世知辛い世の中で一服の清涼感を味わえるささやかな時間帯だったのに……。
A:実在の人物は、いつどうなるかというのがわかりますから、心の準備はできますが、今回の直の死はたしかに不意打ちでしたね。しかもまだ8回目。もっともっと4人のかけあいをみたかったという人も多いでしょう。
I:今週は、冒頭に小一郎と直が一緒に暮らし始めた様子が描かれ、墨俣に向かう小一郎に対して直が愛妻弁当ならぬ愛妻おにぎりをこしらえて渡したりして、仲睦まじさ絶頂だったのですよ。それが、祝言の報告をするからと、直が父である坂井喜左衛門(演・大倉孝二)のもとに行ったばかりに、農民同士の争いに巻き込まれて、あんな最期を迎えてしまいました。
A:まあ、ドラマ用語でいうところの「鬼脚本」だったということですね。『豊臣兄弟!』の第1回目は、中村の農村で農民たちが小競り合いをしており、小一郎が仲裁に入るところからスタートしています。まさか、あのシーンの延長に、直の悲劇が待っていたとは、というのは正直な感想です。
I:戦はもちろん、農民が、庶民が平和に暮らせる時代を築きたくて、身分に関係なく実力がある者が取り立てられる社会にしたくて、小一郎は信長(演・小栗旬)に従って武士になることを決意したんですよね。
A:その理想の社会の実現が、まだまだ成っていないというのが、今回の出来事でした。この直の死は、ドラマの中で、小一郎の生涯に大きな影響を与えるのではないかと私は思っています。大河ドラマに登場する架空キャラは、箸休め的なシーンで登場したり、コミックリリーフとして場を和ませたりすることが多いですが、ともするとこの人物が歴史を動かしているんじゃないかというくらい、大きな役割を持っている場合もあります。
I:架空キャラが歴史を動かしていたら、ファンタジーじゃないですか。
A:あくまで、そういうこともあったかもしれない、と思わせるようなドラマ上での仕掛けなので、史実と混同してはいけないのですが、重要な架空キャラが登場する大河ドラマの最たる例といえるのが、大河ドラマ草創期の1967年の『三姉妹』です。幕末から明治にかけての動乱期を舞台に、旗本の三姉妹やそこに交わる人間模様が描かれましたが、三姉妹と、実質上の主人公であった青江金五郎(演・山﨑努)という主要人物が架空の人物でした。
I:確かに主人公が架空の人物、という大河ドラマはありますね。1980年の『獅子の時代』もそうでした。
A:『獅子の時代』は山田太一さんの脚本でしたが、会津藩士、薩摩藩士の主人公がいずれも架空の人物でした。演じたのは菅原文太さんと加藤剛さん。当時、私はまだ小学生だったので深くは考えなかったのですが、映画スター菅原文太さんの初のテレビ主演作だったそうです。
I:そうとうチャレンジングな作品だったのですね。
A:1982年の『峠の群像』では、松平健さん演じる石野七郎次という架空の赤穂藩士が、討ち入りを目指す赤穂藩士に対して、武士を捨てて、塩田での商業による再起を目指す藩士で出演していました。当時の記事で覚えているのが、「図書館に『石野七郎次のことを調べたい』という方がきた」というのがありました。
I:それくらいリアルな人物像だったんですね。
A:1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では平幹二朗さん演じる加納随天という架空の易者が登場しました。当初は、それほど違和感はなかったのですが、信長実母との関係、本能寺の変での登場の仕方など、物議をかもしました。
I:架空人物というか、オリジナルキャラって難しいんですね。でも、やっぱり今回の直の死は納得できない。
A:架空のオリジナルキャラにそこまで感情移入できたということは、白石聖さんの演技が素晴らしかったということですよね。なんか、すぐにでも白石さん出演の作品がみたいですよね。
I:私は『豊臣兄弟!』の後半に別キャラで再登場してもいいくらいに思っています。
A:まあ、直の不遇の死を無駄にしてほしくないですよね。

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











