物語は、心に蒔かれた種である。幼いある日に読んだ漫画の小さなフレーズが思いもかけずに蘇ってくることがある。生きてきた道を振り返ると、いくつもの岐路で物語の断片たちは、標となり灯火となって私たちを導いてきた。人生を変えた名作漫画に、再び出会う。

石田衣良さん(いしだ・いら/作家)
1960年生まれ。成蹊大学卒。『4TEEN フォーティーン』で直木賞受賞。著書に『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ、『禁猟区』など。漫画原作も手がける。

「深さと思想性のある石ノ森章太郎の漫画に惹かれ、少年時代は『リュウの道』を感情移入しながら読みました」

作家の石田衣良さんは、「漫画はすでに日本のメインカルチャー。世界に広がるのも当然」という。その理由は?

「他の国と違って、日本の漫画の場合、週刊誌連載がほとんどです。このシステムが、才能絞り出し器になっているんでしょうね。毎週やってくる〆切が、カラカラになるまで否応なく才能を絞り出していく。私たちはその貴重な滴を享受しているわけです」

石田さん自身、小学生の頃から漫画の熱心な読者だ。

「いつ頃からかわかりませんが、作家中心主義のようなところがありまして。小学生の頃から、監督の名で映画を選んでいました。漫画もそうで、作家性で作品を評価するようになっていました」

石ノ森章太郎、藤田和日郎、一色まこと……下に挙げるのは、石田さんが作家性を評価する作家たちだ。

「石ノ森章太郎には、深さと思想性があります。少年時代の僕は、“人類とは何か”と問いかける『リュウの道』に感情移入しながら読みました。子ども向け漫画なのに、容赦なく、制限を設けずに表現を追求しているんですよね。『からくりサーカス』は作家になってから読みました。少年漫画の基本は成長物語ですが、藤田和日郎はそれを代表する書き手です」

大島弓子=恋愛小説の理想

石田さんは、10代で読んできた萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子……といった女性漫画家の作品に、小説創作で大きな影響を受けているという。

「恋愛小説は10の情報をすべて克明に書いてはダメで、10のうちひとつ、ふたつの記憶に残るシーンだけ書いて余白を残すのがいい。台詞と台詞の間に、感性による飛躍があるんですよね。この手法を僕は大島弓子から学びました」

『からくりサーカス』藤田和日郎著

「10代の男の子がいろいろな人に出会い、戦い、成長していくのが少年漫画の王道だとしたら、その中のピカイチは『からくりサーカス』です」と石田さん。1997〜2006年『週刊少年サンデー』で連載。(写真はSSC版です)
小学館文庫(電話:03・5281・3556) 880円

『ピアノの森』一色まこと著

1998〜2015年に『モーニング』などで連載。主人公がピアノのショパン・コンクールで世界に挑戦するまでを描く。「全26巻なので数日で一気に読める。良質な漫画を読むのは、大人の精神取り戻し術です」(石田さん)
講談社(電話:03・5395・3608) 990円

『失踪日記』吾妻ひでお著

日本漫画家協会賞大賞など賞を総ナメにした実話漫画。漫画家のホームレス生活が描かれる。「自然主義小説など日本の私小説の系譜に連なるエッセイ漫画です。日本が独自に発達させた漫画ジャンルですね」(石田さん)
イースト・プレス(電話:03・5213・4700) 1254円

『綿の国星』大島弓子著 

大島弓子の代表作で、1978〜87年まで少女漫画誌『LaLa(ララ)』で連載。「大学1年の春、近所の書店で『LaLa』を立ち読みし、面白さにガーンとなって、姉や妹に薦めて回った記憶があります」と石田さん。
白泉社文庫(電話:03・3526・8156) 649円

『リュウの道』石ノ森章太郎著 

「これは、石ノ森さんが漫画で描きたかった、『2001年宇宙の旅』ではないでしょうか」と石田さん。1969〜70年まで『週刊少年マガジン』で連載した、核戦争後の地球を舞台に描く、壮大な構想のSF冒険物語。(C)石森プロ
秋田文庫 775円 ※品切れ

※書籍の定価は現在販売されている版の各第1巻のもので、巻によって異なります。出版元に在庫がない場合があります。

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