歴史あるキャンパスには、大人が興味を惹かれる施設や場所が多数ある。医学史、自然誌、演劇、文学から仏教美術まで。大人の好奇心が大満足! 前編に引き続き、草野仁さんに東京大学を案内してもらった。
緑豊かなキャンパスに文化財建築と特色ある地形が集積|東京大学(前編)はこちら。https://serai.jp/hobby/1220132
実と美を備えた大学建築の嚆矢「内田ゴシック」を鑑賞する
煉瓦タイル張りとアーチが特徴|工学部1号館

東大文学部生だった草野さんが実際に学んだ校舎は、今も本郷キャンパスに残る。中でも、法文学部1号館、2号館(下写真)は、国の登録有形文化財にも登録されている貴重な建築物だ。
「このアーチですね? 覚えています。学生の頃から、“たいへん風格のある建物だな”と思っていました」
教会を思わせるアーケードを歩く|法文学部2号館

正面は書架に並ぶ背表紙を表現|総合図書館

昭和初期の風情が残る
東大は関東大震災(1923年)で甚大な被害を受ける。
学内3か所から火の手が上がり、木造の多くが焼け落ちた。東大は、本郷キャンパス復興に乗り出すのだが、このとき、計画の中心的存在だったのが内田祥三(うちだ・よしかず/工学部教授、後の第14代総長)だ。
構造は火災に強い鉄骨・鉄筋コンクリート造り、外壁は施工が容易いスクラッチタイルに、外観はアーチが特徴的なゴシックスタイル。内田は、早急な対応と頑丈さ、デザインの美しさの3つを実現させてみせた。
これらの建物は、設計者の内田教授の名をとり、「内田ゴシック」と呼ばれる(上の建築物は、すべて内田ゴシック)。安田講堂(下写真)をはじめ、いくつもの内田ゴシックが、景観を形作っている。
「歴史的にも貴重だったんですね」と草野さん。昭和初期の風情を味わえるのが、東大本郷キャンパスなのだ。
正面の入口は建物の3階に位置|安田講堂


地形のダイナミズムが味わえる東大散歩
東大本郷キャンパスの魅力は、それだけではない。実は、「地形観察」においても恰好の場所なのだという。そう教えてくれたのは、東京スリバチ学会会長の皆川典久さん(61歳)だ。
皆川さんは「三四郎池」に着目すると面白い、という。安田講堂の脇にある池は、夏目漱石の小説『三四郎』に登場することで有名だ。ゆえに今は、「三四郎池」と呼ばれる。
「加賀藩3代藩主・前田利常が3年がかりで造った回遊式庭園の中心にあったのが、この池です。この池は育徳園心字池といい、台地の窪地を掘り進めて、湧水を露出させた自噴池です。江戸の庭園文化も窺い知れます」(皆川さん)
東大の主な建物は台地の上にあり、三四郎池はそこから10m以上低いところにある。池から見上げると、木々の上から安田講堂の時計塔が顔を覗かせ、池が谷になっていることがよくわかる。
「言われてみれば、本郷は高台の上にありますね。大藩の大名屋敷だから一等地にあったのでしょう。本郷の構内も上ったり下りたりが多く、景観の変化が楽しいですね」(草野さん)

周囲には大きな高低差がある!|三四郎池

江戸から令和の歴史
皆川さんによれば、東大本郷キャンパスには、江戸時代の痕跡(赤門、三四郎池など)と、昭和初期の築100年超の建物(内田ゴシック)、そして最新の建造物などがひとつの景観を作っており、連綿と続く歴史の流れを感じ取れる希有な場所なのだという。
「この土地の歴史こそ、東大が誇るべきもの。次代に遺していきたいですね」(草野さん)
本格的なランチとディナー|レストランカメリア

東京大学本郷キャンパス

東京都文京区本郷7-3-1
東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅より徒歩約8分
レストランカメリア
伊藤国際学術研究センター1階
電話:03・3812・2766
営業時間:11時30分〜15時(最終注文14時30分)、17時〜22時(最終注文20時)
定休日:日曜、祝日、年末年始、入学試験日(大学入学共通テスト日)
写真協力/PIXTA

