少子高齢化が急速に進展し、人口が減少する中で、高齢者の働く環境はずいぶんと整備されました。現在は高年齢者雇用安定法により、希望者全員の65歳までの雇用確保措置が企業に義務付けられています。長く働き続ける人が増える一方で、大企業を中心に早期退職優遇制度を設けている会社の割合も増えています。

社員の立場からすれば、定年まで働き続けるか、優遇制度を利用して早期に退職するか、迷うところだと思います。今回は、定年まで勤め上げることのメリットについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
定年まで勤め上げるか早期退職するか
定年まで勤め上げるメリットとは
一つの会社で働き続ける人は少ない?
まとめ

定年まで勤め上げるか早期退職するか

政府が公開している令和3年の『労働力調査』によると、55歳から59歳の男性の就業率は約8割、女性は約7割となっています。60歳から64歳の年代を見ても男女ともに就業率は6割を超えています。就業者のうち、雇用者の割合はほぼ9割となっていますから、多くの会社員が高齢になってもなお仕事を続けている実態が見てとれます。

人生100年時代という言葉も聞かれる今、仕事人生もまた長くなりました。長く働くといっても、どのような形で仕事を続けるかは人それぞれです。会社員の場合、退職して家事・育児に専念する人を除けば、定年まで働くか、転職するかという二つが主な選択肢となるでしょう。中には、退職して事業を始める人もいますが、転職や起業には一定のリスクがあることは否めません。

早期退職制度とは

退職をして次のステージに行きたいと考えていても、経済的な問題を考えるとなかなか踏み切れないという人も多いのではないでしょうか。このような人を後押しするきっかけとして、早期退職やセカンドキャリアを支援する制度を設けている企業もあります。早期退職制度というのは、退職一時金を割り増しするなどの条件をつけて定年に達する前に退職する人を募る制度です。

対象年齢は50歳以上としている企業が、全体の7割近くを占めています。こうした制度を導入している企業はまだ少数ですが、大企業ほど導入率は高く、1割を超えているというデータもあります。会社からすれば、定年再雇用者が増える分、人件費の抑制も考えなければなりません。特に大企業では、組織の新陳代謝を図る必要がありますので、早期退職者を対象に、手厚い優遇制度を設けている会社が数多く見られます。

転職や起業などの意思がある人は、この制度を利用することも選択肢の一つになります。

定年まで勤め上げるメリットとは

会社員の場合、定年まで勤めることと早期退職することは、どちらのメリットが大きいでしょうか? これについては、それぞれの人の職場環境にもよりますから、一概にどちらが良いと言い切ることはできません。たとえ、第一志望の会社に入社したとしても、仕事の内容や待遇、人間関係などに不満を感じて退職を考える人は少なからずいます。

パワハラや過重労働で、心身ともに追い込まれてしまう人もいますから、無理に我慢して働き続ける必要はありません。ただし、退職を急ぐ特段の事情がないならば、やはり金銭面の比較が重要になってきます。

定年退職者と早期退職者の退職金の違い

ここで定年退職者と早期退職者の退職金について比較してみましょう。厚生労働省の令和5年の『就労条件総合調査』で退職給付の支給実態を見ると、勤続20年以上かつ45歳以上の大卒以上の社員の場合、定年退職者の平均が約1,900万円であるのに対し、早期優遇退職者は約2,300万円となっています。

この数字だけ見ると、早期退職優遇制度を利用したほうが得だと考える人は多いでしょう。ただし、継続して勤務していれば、その後もブランクなく給与をもらい続けることができます。慣れた職場で仕事を継続できるという安心感もありますし、賞与の支給や昇進もあります。転職や起業をした場合、今までと同等またはそれ以上の収入が確保できる保証はありません。

特に中高年になってからの転職ですと、よほどスキルの高い人でない限り、転職で収入アップを望むのは難しくなります。定年後の再雇用まで考えた場合、継続して安定した収入が得られるという点では、定年まで勤めるほうが一般的にはメリットがあるといえるでしょう。

一つの会社で働き続ける人は少ない?

商工会議所が、2024年の新入社員に対して行なったアンケートによると、入社した会社で定年まで勤めたいという人の割合は2割にとどまっています。この数字は10年前の調査と比べると、1割以上低下しています。「特に決めていない」という人も4割近くいることを考えると、圧倒的に転職志向が高いと言い切ることはできません。

しかしながら、終身雇用が当たり前ではなくなった今、転職のハードルは下がっています。テレビや雑誌、ネットなどでは、転職ビジネスの広告を目にしない日はありません。一昔前よりはるかに転職の情報が入手しやすく、また実際に転職する人が多いのは事実です。

転職するか? 定年まで働くか?

ただし、転職や起業で成功した人もいますが、うまくいかなかった例も少なくはありません。退職を考える場合は、転職などの準備と共に、退職金、失業手当なども確認して、しっかりした資金計画を立てることが重要です。一つの会社で働き続けることに、まったくデメリットがないわけではありません。

その会社しか知らないために、何かの事情で転職せざるを得なくなったとき、なかなか対応できないということもあります。また、長年勤めた会社の人間関係や仕事に固執しすぎてしまい、定年後の生活にスムーズになじめない人もいます。同じ会社で働き続けるとしても、社外の世界にも視野をひろげて、柔軟な考え方を持つことが必要だと言えるでしょう。

まとめ

若いうちは定年や老後ははるか遠いものだと感じている人も多いと思います。けれども、経験を重ね中高年になると、定年は現実のものとして迫ってきます。これからの人生で仕事をどう続けていくのかということは、誰もが考えることでしょう。自社に早期退職優遇制度がある場合、定年まで勤め上げるか、早期退職して新しいステップに進むのかは悩ましい問題です。正しい情報を仕入れ、家族とも相談して、熟慮のうえ選択することが大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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