愛用の機械式時計をいつまでも使い続けたい。そのためには分解整備や修理も必要だ。そんなときこそぜひ名医の扉を叩きたい。

「自分が修理を手がけた時計を後世の技術者が見たとき、何かを感じてほしいのです」
どんなに優れていても機械である以上、調子が悪くなることはある。ましてや時計は精密機器であり、最良の状態でこそ本来の実力を発揮する。もし分解整備や修理が必要になったとき、メーカーや購入店に持ち込むのもいいが、ぜひ相談してみたいのが『ゼンマイワークス』だ。同店代表で、技術者の佐藤努さんはいう。
「機械式時計の分解掃除や単純な部品交換は保守管理の範囲です。それ以上の、欠損パーツの再製造など本当の修理を私たちは提供したいと考えています」
作業は以下のような手順で行なわれる。まず実機を前に、持ち主と気になる部分や重点的に直したい内容についてじっくり話し合う。その上で時計を預かり、状態や対処を検討し、2週間程度で見積もりを提出。承諾されれば、1か月から1か月半を目安に作業を進める。
もちろん作業内容によって期間は異なる。ときには部品の調達などで1年かかる場合もあるという。たとえ同じムーブメント(駆動部)でも状態は千差万別で、それを見極め、応じた処置を施す。年代を問わず、あらゆるブランドの時計に向き合うというからまるで医師のようだ。蘇った時計を前に持ち主は目を輝かせる。その瞬間が嬉しいという。
修理の矜持を後世に伝える
驚いたのは、洗浄した部品は細かなネジに至るまですべて磨きをかけていることだ。大切なのはどれだけ手間と時間をかけ、自身が満足できる内容に仕上げられるか。



「じつは時計の不調の原因には、修理した技術者が誤った作業をしていることも多いんです。ネジを傷つけたり、歯車の動きや調整が充分でなかったり。修理を依頼された品を見るとそれを実感します」
だからこそネジ一本まで磨き上げ、最良の状態に仕上げる。自分の思いを注ぎ、後世それを目にした技術者に伝えたいからだという。
「後世の技術者は磨かれたパーツを見て、何かを感じ、負けない仕事をしようと思うか。そこに期待したいんです」
次世代に対する矜持を込める様は、宮大工の仕事にも似る。機械式時計はこうして人の手によりさらに価値を増し、長く時を刻んでいくのだろう。
「メーカーではないのでそれ以上のことはできないんですよ」と佐藤さんは笑う。匠の技は小さな時計の中に生き続ける。


35年にわたり、時計修理業務に従事。輸入代理店の技術部門責任者を経て、2014年に『ゼンマイワークス』を創業。メンテナンスは時計本来の基礎体力を蘇(よみがえ)らせると説く。
ゼンマイワークス

東京都中央区八重洲2-11-7 一新ビル2階
電話:03・6262・3889
営業時間:10時30分〜12時30分、13時30分〜18時(要予約)
定休日:土曜、日曜、祝日
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩約3分
取材・文/柴田 充 撮影/植野 淳(植野製作所)
※この記事は『サライ』本誌2024年6月号より転載しました。
