九州と同じほどの面積で、東シナ海の南に位置する台湾は、大きな魅力を秘めた旅先だ。特に開府400年に沸く台南に注目。多様な文化を探訪する旅に出かけたい。

『羽鳥又男(はとりまたお)』(1892〜1975)元台南市長
群馬県出身。1916年に台湾に渡り、台湾総督府勤務。1942年から台南市長。終戦後は中華民国台南州接管委員会のアドバイザーとなる。引き揚げ後は国際基督教大学(ICU)の設立に奔走した。

台湾の伝統文化を尊重し史跡の修復を進めた市長

羽鳥又男は現在も台南の人々に慕われる「名市長」である。戦時下の1942年に台南市長となった羽鳥は、台湾の伝統文化を重んじ、日台の分け隔てなく市民に接した人柄で知られる。

台湾に渡った後、羽鳥は台湾総督府中央研究所の職員となり、その後、総督官房秘書課に転任。そして、人事課長を経て、台南市長となった。総督府での勤務時代、第18代台湾総督・長谷川清は羽鳥に絶大な信頼を置いていた。羽鳥を台南市長に任命したのも長谷川だった。

羽鳥(右からふたり目)は1916年、親戚の羽鳥重郎医師を頼り渡台。羽鳥重郎は志賀潔と同時期に赤痢菌を発見した。毒蛇や風土病の研究で知られ、台湾ツツガムシ病の発見者でもある。

史跡や文物の保護に邁進

羽鳥の功績を挙げるなら、史跡の保存や修復を熱心に行なったことだ。特に孔子廟と赤崁楼の修復は広く知られている。

孔子廟は昭和期の皇民化運動に伴い、屋内に日本式の神棚が置かれたりしたが、羽鳥はこれらの撤去を命じ、建物の修復を指示した。

「全臺首學」の扁額が印象的な孔子廟の門。その脇にある石碑に刻まれた「臺南孔子廟」の文字は羽鳥又男が揮毫したもの。

赤崁楼の修復は、巨額の費用を要するため、市長の裁量では実施が難しかった。そこで羽鳥は一策を講じ、懇意だった長谷川総督にこの件を持ちかけた。その際、「民衆の心を掌握できなければ、信頼される政治はできない」と説いたと伝わる。現在も敷地内に修復の完成を記念した石碑が残り、文昌閣の中にも碑文が残る。

赤崁楼文昌閣の修復費用は台南市が半分を負担、残りは寄付で。
開館時間:8時30分~17時30分(文昌閣)
定休日:無休
赤崁楼の修復は1944年12月20日に終わった。修復を記念した石碑が文昌閣の近くに残る。撰文は羽鳥又男による。

また、開元寺には台湾最古の古鐘が残る。戦時中の金属供出令で、古鐘もその対象となったが、羽鳥の指示で免れた。

戦時体制にありながら文化を尊重した市長。その生き方は世代を超え、語り継がれている。

開元寺は鄭成功の長男である鄭経が母のために建てた仏教寺院。台湾有数の歴史を誇る。敷地には緑が生い茂り、散策が楽しい。
開元寺に残された古鐘は1695年に鋳造され、台湾最古のもの。大雄宝殿に残され見学可能。

開元寺

住所:北区北園街89号
電話:06・2374035
開館時間:4時~19時
定休日:無休
料金:無料

解説 片倉佳史さん(台湾在住作家・54歳)

1969年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。台湾に遺る日本統治時代の遺構を訪ね、それにまつわる歴史秘話を記録している。歴史、建築、グルメ、鉄道などのジャンルで執筆・撮影を続けるほか、各種講演も行なう。

※この記事は『サライ』本誌2024年1月号別冊付録より転載しました。

【完全保存版 別冊付録】台湾の古都「台南」を旅する

72ページ総力取材。完全保存版別冊付録。
『サライ』2024年1月号【別冊付録】は『台湾の古都「台南」を旅する』。

 

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