取材・文/柿川鮎子 撮影/木村圭司
介護の問題が深刻なのは人間だけではありません。ペットも高齢になれば認知症や寝たきりなどの介護問題が深刻化します。24時間のお世話が必要になるケースも少なくありません。多くの飼い主は自宅でペットを看取ることが常識と考えていますが、飼い主自身も高齢化してペットのお世話ができなくなることも考えられます。
そんな時、ペットの介護を老犬・老猫ホームに委ねる飼い主が少しずつ増えてきました。ペットの介護士がケアすることで、入居したペットの身体機能がアップしたり、食欲が増すなど健康状態が向上するケースもあると言います。
実際、老犬・老猫ホームはどういうところなのか、実際にホームのマネージャーなどを経験した動物看護師の佐々木優斗さんに、実態を聞いてみました。
ペットの第二のお家というイメージのペット・ホーム
── まず、老犬・老猫ホームとはどんなサービスを行うところなのでしょうか?人間の介護施設の様に、自宅と同じように飼ってもらえるのでしょうか?
佐々木さん「はい、システムとしてはペットの飼養費をお預かりし、飼主様に代わりお世話をする施設となっております。イメージとしては【ペットの第二のお家】としてイメージして頂くといいですね。
利用方法としましてはペットの介護と家庭の両立が困難であるという事はもちろん、飼主様自身の入院やケガ、家庭のご事情、火事や地震などの災害、急な出張や転勤などさまざまな理由で預けられていらっしゃいます。
なので、老犬・老猫という名は付いておりますが高齢に関わらず様々なペット達に利用されています」
入居金と飼養費を軸にプラスされる料金
── 入居の料金なのですが、人間の介護施設ですと、入居金の他に、食事代などの管理費を月々支払います。ペットの場合も同じでしょうか?
佐々木さん「料金体制はホームによって違いはありますが大体は、【入居金】【飼養費】を軸としていることが多いです。食事代などお世話にかかる費用は飼養費に含まれております。
他にも動物病院と連携がある場合などは【医療費】、トリミング提携があれば【トリミング費】、ペットの要介護度に応じて【介護費】などがあったりもします。
支払い方法は様々で月々や年単位、また終生飼養をお願いする場合は終生―括という特殊なケースもあります。」
良いホーム、見分け方のポイント
── ネットで調べていろいろな老犬・老猫ホームのパンフレットを取り寄せました。どんな点を注意してホームを選んだら良いでしょうか?
佐々木さん「項目別にチェックするポイントを簡単に紹介しましょう。
・料金
入所時に支払う料金や支払日のほか、食事代やトリミング代、介護費がどのように設定されているのかを知っておきましょう。飼主様が購入したフードがあれば無料になるのか、すべて施設で購入したフードだけなのかなど、それぞれ違いがあります。
・立地
離れて暮らしていても、時間があればできるだけ面会してあげたいもの。その際、遠いと負担になってしまいます。その点、入所時や面会時の送迎が付いていると飼い主様の負担が減ります。
・運営している団体について
動物取扱業の登録が重要。運営している親会社についても調べておくと安心です。人間の介護施設でも倒産や廃業する事業者があります。継続してサービスを受けられるような組織であれば安心です。
・居室
大事な家族であるペットが終生過ごすかもしれない第二のお家となります。広さや介護に適している施設かどうかをチェックしておきましょう。
・施設内
運動スペースやシャンプー設備などストレスを軽減できる設備があるといいです。
あとは衛生面や臭いに気を遣われているかどうかは重要なポイントとなります。
・サービス内容
散歩の有無と回数、食事はホームで用意してもらえるかなどをチェックしておきます。
それと副次的なサービスとして、機能回復訓練(リハビリ)や東洋医学など取り入れている施設では、ペットが健康で快適に過ごすことが可能です。
・面会時間
時間に拘束性がある飼主様も多いでしょう。
仕事終わりの夕方以降や、年末年始・祝日にも面会できるなど、ある程度フレキシブルに面会できるホームがおすすめです。
・介護士の質
経験豊富な動物介護士がいるか、きちんと学んでいる有資格者がいるかなどを見ておきましょう。なかでも動物看護師経験者がいると、病気の対応や状態把握に優れているので安心できます。
・介護体制
こまめな寝返りをせず寝たきりで放置されていないかや、衛生管理、食事管理などがしっかりしているかも必ずチェックしましょう。
・医療体制
病気やけがの時にどのように対応しているか、連携・提携している動物病院はあるかも重要なポイントです。定期健診を行っているホームだと、病気の早期発見につながるので安心です。
特に気を付けてチェックしておいた方がいいのは、ホーム側の独特の【言い回し】です。
中でも「夜間常駐」という言葉ですが、―見すると夜間も人がいて安心、と思われがちですが、実際は運営者の自宅をホームにしている施設も多く、自宅兼ホームで人が夜就寝をすれば、それだけで夜間スタッフ常駐になってしまいます。
夜間もしっかり見てもらいたい場合は、きちんと夜間巡回や夜間介護に対応しているかを確かめた方が良いと思います」
危険なホーム、見分け方の3つのポイント
── こんなペットホームは要注意、というようなホームはありますか?
佐々木さん「1)入所前に見学をさせてくれない、2)―切の面会拒絶、3)途中解約ができない、の3点が見られたら要注意です。
特に1)と2)で、大きな理由がなく見せないということは、見せたくない物、例えば不衛生な管理の実態がある可能性があります。引き取ってお世話を蔑ろにするいわゆる『引き取り屋』と呼ばれる団体の可能性もあるので注意が必要です。
3)については、ペットをホームに託す事情は人によって様々です。事情が解決すれば、再び自分の家でペットと過ごす可能性も十分に考えられます。そんな時に途中解約ができないと大変です。その点、どうなっているのかを調べておく方が良いでしょう。
他にも、最初に入居する際は契約書を作成しますが、その内容も疑問があればきちんと確認をしておいた方がよいでしょう。特に大事な家族であるペットとの絆を裂く文言が書かれていないかを、慎重に読むようにおすすめします」
飼い主側の負担軽減はペットのためにもなる
── 最後にペット介護に関するアドバイスをお願いします
佐々木さん「私自身、往診専門の動物病院に勤務していますが、往診先ではペットを動物病院に連れて行けない高齢の飼い主様もたくさんいらっしゃいます。
ペットも人と同じように自宅で介護をされる方は多いですが、それでも難しい場合はホームという選択肢があることを知っておくだけで、飼主様の心の負担が軽くなるかもしれません。
ペットの介護は人の介護以上に大変な場合もあります。飼い主さんが疲弊してしまったら、―番悲しむのはペットです。ペットの為に、プロの手を借りるという発想で、笑顔の介護をして頂けたらと思います」
佐々木さんの話を聞いて、老犬・老猫ホームと聞くと、何となく介護放棄するような、そういう後ろめたい感覚が消えました。ペットにとって快適で、飼い主さんに笑顔が戻るのであれば 、利用してみるのも―つの方法だと思えるようになってきました。いざという時は、教えていただいたチェック項目を参考に、失敗しないペット・ホーム選びを実現させます。
取材協力/動物介護・看護師 佐々木優斗さん
動物看護師として0.5次予防医療から救急医療まで幅広い分野を経験。愛犬の死を機に、もっと「ペットの為にできる仕事」をと考え動物介護士としての道を選択。犬の大型介護施設勤務、ハイホスピタリティ老犬ホームの立ち上げ、老犬&老猫ホームのマネージャーを経て、新たに動物往診事業や動物介護+動物看護の提供、人材育成やキャリアデザイン構築をかかげ株式会社B-sky統括マネージャーに就任。その傍ら、理念を共にする者と―般社団法人高齢動物医療福祉協会を設立し専務理事に就任。
・株式会社B-sky https://b-sky.co.jp/
・往診専門動物病院 わんにゃん保健室 https://asakusa12.com/
・―般社団法人 高齢動物医療福祉協会 https://emwa.or.jp/
文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。
撮影/木村圭司