植物学者・牧野富太郎に通ずる鑑識眼をもち、名もなき植物を描き続けた孤高の日本画家を知る
牧野富太郎と堀文子。生きた時代も背景も異なるふたりだが、実は「植物」と「ホルトノキ」で繋がっていた。手記や植物図譜、絵画を通して、共通する思いを探る。
牧野富太郎が調査したホルトノキを堀文子が守り通した
4年前、100歳で亡くなるまで『サライ』で画と文による「命といふもの」の連載を続けた日本画家の堀文子さん。
最晩年を過ごした大磯(神奈川県)のアトリエには、堀さんが読み込んでいた『原色牧野植物大図鑑』が置かれる。
その著者こそ、「日本の植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎(1862~1957)。NHKの連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデルとなった人物である。
牧野は、植物学者であると同時に、「植物画家」の顔も持っていた。その観察力と描写の緻密さは、牧野の植物図鑑の質を上げている。
堀さんは、牧野の生き方を尊敬していたという。生涯を植物に捧げ、植物を観察し続けた「牧野の目」は、同じく植物を描き続けた堀さんの目に重なる。
絵画制作の下絵にするため、枯れ葉などを集めては紙に貼り、自分流の「植物図譜」を作っていた堀さんの姿は、まさに植物標本を作る牧野そのものだ。
堀文子と牧野富太郎。ふたりを結びつけているのは、それだけではない。堀さんはアトリエの前に立つ古木ホルトノキ(※)が伐られそうになった際、土地を購入することで救った。実はこの木を、54歳の頃の牧野が採集に来ているのだ。日記に書かれた「高麗山」はホルトノキの辺りの地名で、元は徳川家敷があったという。
大磯のホルトノキで、ふたりは繋がっていたのである。
※千葉県以西の本州、四国、九州および沖縄に分布する常緑樹。
雑草の美しさ
「雑草という草はない」
牧野が残したとされる言葉だ。
「どんな草にだって、ちゃんと名前がついている」というのが理由だった。
堀さんなら、さらにこう付け加えるに違いない。雑草それぞれに、美しさがある、と。
踏みつけられても、雨風に打たれても、なお堂々と生き抜く雑草に、堀さんは感動し、その姿をたたえるべく、絵に残した。
牧野富太郎も、堀文子も、植物の生き様に心打たれたともいえる。
《自己主張や、自己表現ではない絵を描きたい、気に入った植物や美しいと思う風景があれば、ただそれに近づくためだけに絵を描きたい》(『私流に現在を生きる』)
ふたりはただひたすらに植物と向き合ったのだった。
『サライ』で長期連載。「命といふもの」の植物画
堀文子「命といふもの」描きおろし原画『尾花』額装
《今、花ざかりの尾花の穂をまじまじと見詰めている。(中略)この目立たない花の精巧な細工は、息をのむばかりだ》(「命といふもの」)
『サライ』の連載で、本ページの作品に添えられた堀さんの言葉だ。私たちもまた、この絵に息をのむ。やがてススキは命の終焉を迎え、綿毛からまた新たな命が生まれる。堀さんが描いたのは、壮大な生の流転のドラマだった。
堀文子「命といふもの」描きおろし原画
『尾花』額装
ナカジマアート(日本)
275万円(税込み)
画寸縦32.0×横27.0cm
額寸縦49.7×横44.5×厚さ4.0cm
●額は木、アクリル、布、紙。吊り下げ紐付属。日本製。※すべて直筆サイン入り、一点物の作品となります。
●あわせ買い不可
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堀文子が描いた植物画の展覧会が今秋、東京・銀座で開催
11月16日(木)から29日(水)まで企画展〈堀文子 植物画の軌跡〉を画廊ナカジマアートで開催予定。『サライ』12月号で紹介した作品に関連する植物画が多数展示される。詳しくは公式ウェブサイト(http://www.nakajima-art.com/index.html)を参照。
ナカジマアート
住所:東京都中央区銀座5-5-9 アベビル3階
電話:03・3574・6008
営業時間:11時~18時30分
料金:無料
交通アクセス:東京メトロ銀座線銀座駅より徒歩約3分