
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第25回です。蜂須賀小六正勝(演・高橋努)が龍野城主になりました。「3年後に城持ちにする」という秀吉(演・池松壮亮)との約束から15年。大願成就の場面です。こういう幸せそうな展開、好きです。
編集者A(以下A):3年後には城主にすると秀吉は大言壮語したわけですが、時間がかかったとはいえ実現しました。蜂須賀家はその後、阿波徳島藩25万7000石の藩主として幕末を迎えます。江戸時代の途中から龍野藩は脇坂家が藩主となります。
I:藤堂高虎(演・佳久創)と同じく浅井家家臣から秀吉の家臣になった脇坂安治の藩ですね。赤穂事件の際に浅野家の赤穂城受け取りの役も脇坂家でした。そして、阿波といえば、昨年の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では、終盤に一橋治済(演・生田斗真)が阿波に追放される場面が描かれましたね。さて、安土城が竣工しました。今はその威容に触れる術がないのですが、安土城跡はいつ訪れても感慨深い場所ですね。
A:平成初頭の調査・発掘で大手道の存在など、城郭の様子が知られるようになりました。『信長全史』(小学館)には、昭和時代の写真と調査発掘時の写真、修復復元後の写真が掲載されていますが、いつの日か、復元してもらいたい城郭の筆頭ですね。個人的には、復元江戸城よりも復元安土城が見たいです。
I:安土城建設に功あったとして、織田信澄(演・緒形敦)も信長(演・小栗旬)から「ようやった」と声をかけられました。
A:信澄って誰なの? という視聴者も多かったと思われますが、秀吉と小一郎(演・仲野太賀)のやり取りで説明がされました。本来であれば「小一郎、そんなことも知らなかったの?」という場面ですが、小一郎を狂言回しにすることで、「信長に殺された信勝の息子」「妻は明智光秀の娘」など、信澄のことについてわかりやすく紹介する場面になりました。信澄の立身は、「身内に甘い」といわれることもある信長の性格をあらわす「事例」だと思います。
I:信澄を演じている緒形敦さんは、緒形直人さんの息子さんになります。つまり緒形拳さんのお孫さんですね。
A:緒形拳さんは、1965年の大河ドラマ『太閤記』で秀吉に大抜擢されて以降、多くの大河ドラマに出演した「大河ドラマのレジェンド俳優」です。緒形直人さんも1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』で主人公の信長を演じました。
I:緒形拳さん、直人さんは大河ドラマ史に刻まれる俳優ですからね。緒形敦さん、頑張って!
A:緒形敦さんはいわば「大河俳優三世」ということになるのですが、今後も注目です。ところで、安土城に居並ぶ織田家の姿が感慨深かったですが、背景にある絵も目を引きました。『信長公記』には、安土城内部の障壁画の詳細が記録されていますが、その絵は最上階である「六重目」の「釈尊十大弟子」などが描かれたものでしょうか。けっこうな大作ですが、撮影後あの絵はどのような運命をたどるのでしょうか。


どうにも気になる長宗我部という存在


I:さて、安土城で能見学がありました。シテが面を外すと、土佐国主、長宗我部元親(演・磯部寛之)だったという演出でした。
A:長宗我部元親というと、大河ドラマではあまりなじみのない武将ですからどういう形で展開されるか楽しみでしょうがないですね。実際の長宗我部と信長の関係ですが、劇中時点の2年前の天正6年(1578)に、元親嫡男に信長の「信」の字を与えて「信親」と名乗らせることになりました。このとき信長は、元親に銘刀名馬を下賜したそうです。元親と信長の間を取り持ったのが、明智光秀(演・要潤)です。元親の正室と光秀重臣の斎藤利三(演・内藤剛志)が縁戚関係でもありました。
I:なにはともあれ、長宗我部と信長、さらには光秀との関係がどうなるのか気になりますね。さて、その場面から転じて、信長の前で家臣たちが相撲をとることになりました。森乱(演・市川團子)と対戦するという趣向が取られましたが、林秀貞(演・諏訪太朗)、佐久間信盛(演・菅原大吉)、そしてこともあろうか小一郎の岳父である安藤守就(演・田中哲司)までもが追放ということになりました。
A:古参幹部の林、佐久間、さらには斎藤龍興から離反して織田陣営に与した安藤が追放になったのは事実です。『信長公記』には、佐久間信盛追放にあたって発せられた19条に及ぶ折檻状が記述されています。本気の追放だったことになります。過去の大河ドラマでは、『信長 KING OF ZIPANGU』で林通勝(演・宇津井健)が信長(演・緒形直人)が自らを神として崇めよと命じたことに諫言したことで追放されたという設定でした。同作では、佐久間信盛(演・田中健)は、信長の前で笛の名手と3人で笛を披露したことが、本願寺攻めという大事な戦いの渦中に笛の修練をしていたのか、と受け取られ追放されることになったことが描かれました。1996年の『秀吉』では、信長(演・渡哲也)の非道が過ぎると考えた佐久間(演・織本順吉)、林佐渡守(演・高松英郎)が信長追放を画策したものの、柴田勝家(演・中尾彬)が信長に密告したために林、佐久間らが追放されることになりました。
I:それにしても、信長が相撲好きだったという史実を利用しすぎな感じもするのですが……。浅井長政(演・中島歩)と信長が相撲をとったことが描かれ、その延長線上に小谷落城時に長政が秀吉・小一郎兄弟と相撲をとるという場面が描かれました。もしやと思いますが、本能寺の変の前夜などに信長と誰かが相撲をとったりするの? なんて思ったりしました。
A:いやいや、さすがに本能寺前夜に相撲はないでしょう。だいたい信長と誰が相撲をとるんですか? そんなことよりも、なぜ、小一郎は岳父安藤守就の追放を阻止できなかったのかと思っちゃうんですよね。いや、そもそも既に織田家中の重臣に名を連ねている羽柴兄弟の岳父を追放するだろうかと。
I:「大河ドラマ史上屈指の謎」ということでいいのではないでしょうか。「佐久間殿は本願寺と、そして林殿と安藤殿は、武田と通じている疑いがございました」と明智光秀が言っていました。結局、安藤家の嫡男安藤定治(演・森優作)が、戦が続いて疲れたと武田に通じた理由を話していました。
A:戦が続いて疲れた、というのは、実は重要ワードなんですけどね。信長の軍団は、柴田勝家にしても明智光秀、羽柴秀吉など武将たちは皆々合戦続き。気の休まることはあまりなかったように思われます。

再び登場の長宗我部

I:ところでお市の方(演・宮崎あおい)が「馬揃えが見たい」と兄信長におねだりしていました。
A:信長による馬揃えは天正9年(1581)に実際に行なわれたイベントです。ざっくりいうと、勢威を誇示する軍事パレードのようなものということになるでしょうか。過去の大河ドラマでは、2011年の『江 姫たちの戦国』で尺をとって描かれました。浅井三姉妹が桟敷席で「キャーキャー」叫んでいたのが懐かしいです。この馬揃えで織田家の「席次」が明らかになっているので、本作でも登場するのかと思いましたが、意外なほどあっさりでした。
I:お市の方が見たいといったわりには……って扱いでしたね。
A:ちなみに、織田家の順列は、80騎を従えた嫡男信忠(演・小関裕太)、30騎で続いた次男信雄、次が信長の弟信包(10騎)です。三男信孝(10騎/演・結木滉星)は信長弟より下位ということでした。そして、信澄は信孝に次いで10騎で続いているのです。
I:このあっさり描かれた「馬揃え」を見学していたということで、再び長宗我部元親が登場しました。まるで女性のようないでたちでした。
A:大河ドラマでは坂本龍馬でおなじみの土佐弁を駆使するキャラクターとして登場しました。「わしは幼き頃から女子のようじゃとよう言われよってのう、姫和子などと呼ばれたもんよ」と、有名な「姫和子」についても触れられるサービスぶりです。ちょっと興奮してきましたね。
I:前段で「四国は切り取り次第」を認めてくれたことに謝意を表し、信長も「存分に進められよ」と言っていたにもかかわらず、舌の根も乾かぬうちに「長宗我部の四国切り取り、認めるわけにはいかぬ」「気が変わったのじゃ」と「気まぐれな信長」が描かれました。しかも光秀に説き伏せるように命じる始末です。
A:そんな光秀のもとに、信長を討て、という義昭(演・尾上右近)の花押のある書状が届くのです。当欄ではこれまでも、「大河史上最高レベルの義昭×光秀コンビ」と評し、「これまで見たことのない本能寺が見られるかも」と予想してきました。
I:なんだかドギマギしてきましたね。いったいどんな本能寺が展開されるのでしょうか。

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











