取材・文/柿川鮎子
【獣医さんに聞く】今すぐやりたい、ペットの夏の紫外線対策とは?日差しが強くなってきました。女性にとってはシミや皺の原因となる困った紫外線ですが、ペットの紫外線対策については、意外と知らないことが多いもの。今回は犬と猫の紫外線対策について、ひびき動物病院院長の岡田響先生にうかがいました。

「最近は動物用のUVカット用品も増え、強い日差しから皮膚や身体を守るUVケア服なども販売されています。紫外線カットに関する関心は、以前に比べると高まっているようです」と岡田先生。

「紫外線は5月から増え、7~9月頃までがピークです。だいたい正午頃から14時頃までが最も強くなる時間帯なので、なるべくこれらの時間帯の犬の散歩は避けた方が良いでしょう。紫外線による健康被害だけでなく、熱中症予防にもつながります」

■強い紫外線を浴び続けると皮膚にダメージ

犬と猫の場合、強い紫外線を長時間浴び続けると皮膚や目にダメージを与えることが知られています。岡田先生によると、紫外線による皮膚の異常としては、扁平上皮癌という皮膚がんや天疱瘡(てんぽうそう)という自己免疫病などの原因となることが知られているそうです。

こうした病気は被毛が白色や淡い色や明るい色の犬種、短毛や無毛の犬種の方がかかり
やすい、とされています。鼻や口の周り、目、耳などは被毛に遮られないので、紫外線の影響を受けやすい部位でもあります。

「犬によっては短い時間であっても強い紫外線で(日焼けによる火傷と同じように)急性皮膚炎を引き起こしたり、アレルギーのような症状が出る子もいます」というから、紫外線による害を軽く見ない方がよさそうです。

「色の薄い子だけでなく、実際には黒い犬の背中が火傷のようになった事例や、地面からの照り返しにより、下腹部や太ももの内側などの毛の生えていない部位のダメージがあったり、お腹側やわきの下が皮膚炎になるなどの事例も報告されています。肉球のトラブルなども含めると、紫外線関連の事例数としては少なくない量で、色々と報告されていますよ」というから、注意は必要です。

■猫の耳の先端にできる扁平上皮癌に注意

また、猫の場合は、紫外線の影響で、白い猫の耳の先端にできる扁平上皮癌という悪性腫瘍がよく知られています。耳に治らない傷やかさぶたがある場合は、早めに検査をした方が良いでしょう。

「時間が経って悪化してしまうと、耳を全部切る必要に迫られたり、転移する可能性もあるため、怪しいなと思った飼主さんは、すぐにかかりつけの先生と相談してください」とアドバイスしています。また、その他の猫の紫外線トラブルとしては目の周りの皮膚炎などが見られます。

■紫外線が目に与える影響も大きい

人間と同じように、紫外線は皮膚だけでなく目にもダメージを与えることがあります。特に強い紫外線は白内障の原因のひとつと考えられています。

白内障は進行性の病気なので、なってしまってからでは治せません。普段から長時間紫外線を浴び続けないような生活リズムが、シニア期の将来に関係してくる可能性もあるので、「うちの子はまだ若いから大丈夫」と考えない方がよさそうです。

人間ではサングラスが効果的だと言われていて、ペット用のサングラスも販売されていますが、岡田先生によると「ヒトと同じような効果を期待したいところですが、効果があるかどうかは、現在はまだ十分な研究報告がありません」と言います。

■まずは日差しを避け、犬の散歩後は要チェック

岡田先生は犬の飼い主さんがすぐにできる対策として、「紫外線そのものだけではなくて、日光過敏症などの予防のためにも、強い日差しの時間帯の外出を、避けられるなら避けてあげたいですね」と、散歩時間の見直しをすすめています。

「一番効果があるのは、強い日差しの時間に外出しないことでしょう。やはり12時から14時くらいの間は外出を避けた方が良いと、私は考えています。真夏のアスファルトはその時間は50度以上になっていることもありますから。

そして、散歩から帰ったら、赤くはれていたり、痒がっていないかはチェックしてあげましょう。ノミやマダニなど虫の被害も起こりやすい時期なのと、トラブルがあるとワンちゃん達は大抵舐めてしまい、さらにひどくなってしまうケースが少なくありません。変化があったら早めにかかりつけの獣医さんに相談してみてください」と、散歩後の被毛チェックを呼びかけています。

■紫外線対策をきっかけにトータルバランスの調整を

さらに飼い主さんには、もう一歩進んだ紫外線対策を提案しています。「紫外線や日光過敏症、その他皮膚のトラブルを最小限にするためにも、日頃のスキンケアを考えてみてほしいです。ペットショップにはお洋服などがたくさんありますし、動物病院にもペットのためになる様々なアイテムがありますから、不安になったら病院スタッフなどへ、気軽に相談してみてください。

被毛の外側からの対策としては、お洋服、様々なシャンプー、外用剤などがあります。身体の内側からの対策ではフードを始めしっかりと栄養をバランスよくとって、必要に応じてお薬やサプリメントなどを使うと効果的です。単に紫外線対策や皮膚だけのためとは考えず、全身をトータルにバランスよく整えてあげるという発想で、楽しみながらの紫外線対策を」と提案しています。

■いつもいる部屋の中の紫外線対策

「紫外線対策は犬の散歩中だけではありません。直射日光の当たる庭やベランダ、窓ぎわで遊ぶのが大好きな犬や猫も多いでしょう。家にいる間の紫外線対策もぜひ考えてみてください。さらに熱中症は自宅室内での発生も多いので、紫外線の他に温度にも気をつけましょうね。

窓ガラスに紫外線を通さないフイルムを貼ったり、ベランダには日差しを遮る葦簀(よしず)を設置するほか、紫外線カットのカーテンに変えるなど、いろいろな方法が考えられます。新型コロナ対策で家にいる時間が増えた今、ペットとヒトの生活圏の中で、どのような紫外線対策ができるか、もう一度じっくり考えてみるのもいいですね」と、ペットのUV対策の見直しをアドバイスしてくれました。

■適度な日光浴は体のリズムに重要

「いろいろ紫外線の害悪について述べましたが、悪いばかりではありません。犬は日光にあたることでビタミンDを体内で合成することができます。ビタミンDは骨や歯を維持する為に必要な栄養素でもあります。

また、幸福ホルモンとして有名なセロトニンを出すことや睡眠ホルモンのメラトニンを調整することでも知られています。

夜鳴きをするワンちゃんには、明るい時間に少し外出などをして刺激を与えて下さいとお願いするケースがあります。夜にぐっすり寝てもらうために、昼はがんばって起きてもらい、身体の負担が少なく暑くない時間に日光浴をすると、夜鳴きが治まることもあります」と、紫外線が体内時計の働きを調整してくれることもあると、教えてくれました。

6月21日は夏至で、一年で最も昼が長くなります。この時期は、気候の変化で体調を崩しやすくなります。特に今年は新型コロナ対策でライフスタイルが激変し、人もペットも疲れが出やすくなっています。

時には満月の下で犬とゆっくり月光浴の散歩をしたり、日の出前の涼しい早朝の散歩を、快適に楽しむのも紫外線対策になりそうです。今年の夏は紫外線と上手に付き合って、快適に過ごしたいものですね。

岡田響さん(ひびき動物病院院長)取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

 

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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