文/柳澤史樹
自分に繋がる先祖からの系譜を紙に記した「家系図」。存在自体は知っていても、自分の生家にない人、見たこともないという人がほとんどではないでしょうか。
家系図ってどういうものなのでしょうか。そして、どうすれば作成できるのでしょうか。今回は、意外と知らない「家系図」のことについて、家系図制作サービスを展開している「家樹」社長で司法書士の田代隆浩さんに伺いました。
■家系図はどうやって作る?
家系図を作成する場合は、まず日本の戸籍制度として運用されはじめた明治19(1886)年までのものを調べるのだそうです。それ以上前のものは、お寺の過去帳などを調べて作っていくのですが、日本は島国であったがため、戸籍がしっかりと残っているのが特徴だとか。
このように先祖までの戸籍がしっかり残っているのは、日本のほか台湾や韓国。中でも日本は世界でも有数な、戸籍制度のしっかりした国なんだそうです。
家系図の作成は行政書士などの専門家にしかできないものだと思わ
しかし、田代さんが実際に調べたご自身のご先祖の戸籍を見てビックリしました。
「よ、読めない…」
お客様の委任状をもとに、役所とのやりとりをしながら、これを全部調べ上げ、さらにデータ化して製本化する、というお仕事だったのですね。
「自分でやってみようか」と一瞬考えた私ですが、これを見て即座に断念しました。
家樹の田代社長は、司法書士として、以前より相続や遺言関係でこのような家系図を作成する業務に携わっていた経験から、家系図制作サービスの事業を思いついたのだそうです。
「なかなかご本人が生きている間に相続の話はしにくいもので、お願いしても相続に必要な書類が出てこないケースが多かったのです。そこで自分の司法書士としての仕事を伸ばす意味でも、死への準備を前提にした相続や遺言ではないサービスとしての家系図がいいのではないか、と考えて作ってみたら、その面白さに私がハマってしまいました。
そこでこれはビジネスだけでなく、年代を問わない社会的価値があると思い、昨年自分の司法書士事務所とは別に法人化し、本格的に家系図作成サービスを事業として始動したのです。」
同社の「家系図作成プロジェクト」は、ネット上で投資を募る「クラウドファンディング」で大評判となり、設定した目標金額35万円に対して、なんと2,836%、1,000万を超える申込を獲得し、大きな話題になりました。
家系図といっても紙が1枚できあがるだけ。そこまで多くの人が興味を持ってクラウドファンディングに参加したのには、田代社長のある仕掛けがあったのです。
「家系図というものに『自分のルーツを辿る旅』という体験をリターンとして組み込んで提案したんです」
これを田代社長は「知的体験ギフト」と命名されたそうです。なるほど、 確かに旅という体験に知的好奇心が加わった、新しい切り口の企画ですね。
同社営業の稲留さんも、同じく家系図を作ってみて、ご先祖の地でありながら行ったことがない鹿児島に、とても行ってみたくなったそうです。確かに言われてみれば、自分の祖父母以前のご先祖の土地ってちゃんと訪ねたことがないな…とハッとしたのだそう。
またなかには、ご先祖の職業が武士だったということを証明してほしいというお客さんもいたりするそう。
「戸籍からは先祖の職業はわかりませんが、それを前向きに受け入れる感謝の気持ちが重要だと思います。なぜなら農民だろうが武士だろうが、その人達がいなかったら自分が存在していなかったわけですからね。」
確かにおっしゃるとおりで、家系図を見ていると、その脈々と引き継がれてきた系譜に、じんわりと感謝の念が湧いてきます。
■自分のルーツを探しのきっかけに
今回の取材を通じて、家系図というものについて自分がなんとも知らないことばかりだったことに驚き、また自分のご先祖についてもう少し突っ込んで調べてみたい欲求にかられました。
そして強く感じたのは、大事なのは家系図を通じて感じる「自分の存在価値」です。自分がどのような人とのつながりで今存在しているかを「見える化」することで得られる満足感は、何にも代えがたい宝物。
「モノからコトへ」と価値観が変容しているいまの時代だからこそ、人々がこの家系図に興味をもち、そして賛同しているのだと思います。みなさんも、ご自身のルーツを探すきっかけとして家系図を作ってみてはいかがでしょうか。
文/柳澤史樹
フリーライター/自分史アドバイザー。歴史を楽しむ情報サイトや企業ファンサイトのマネージメント、ビジネスコンセプトやコピーの執筆、多数の著名人取材などの他、現在は一般社団法人 自分史活用推進協議会認定 自分史活用アドバイザーとして、個人の軌跡を残す「自分史」を活動の軸とする。2016年暮れ、地元横浜から相模原市緑区へ引越し、農的暮らしと執筆生活の両立へシフトチェンジ中。
取材協力:家樹(https://ka-ju.co.jp/)