若い頃の血気盛んな自分と比べて、ずいぶん角が取れた…そう感じる人も多いでしょう。経験を重ね、わかることが増えた一方で、「まだ知らない」「まだ伸びしろがある」と自覚するのも、この年代ならではです。

いまは学び直しが当たり前になり、知識は検索やAIで補えます。けれど、言葉の意味を「自分の中で咀嚼する」ことは、誰かに代わってもらえません。先人の名言やことわざに触れることで、若い頃とは違う深さで、学びが返ってくることもあります。

今回の座右の銘にしたい言葉は「袖振り合うも他生の縁」(そでふりあうもたしょうのえん) です。

袖振り合うも他生の縁

「袖振り合うも他生の縁」の意味

「袖振り合うも他生の縁」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「道を行く時、見知らぬ人と袖が触れ合う程度のことも前世からの因縁によるとの意。どんな小さな事、ちょっとした人との交渉も偶然に起こるのではなく、すべて深い宿縁によって起こるのだということ」とあります。

私たちが日々出会う人は、たまたま目の前に現れたように見えても、何かしらの縁によって結ばれている。そのように考え、どんな出会いも大切にしよう、という教えです。

ここでいう「袖振り合う」とは、昔の着物の袖が、道行く人とすれ違う際に触れ合う様子を表しています。現代でいえば、電車で隣り合わせになった人、病院の待合室で少し会話をした人、散歩中に挨拶を交わした人、といったところでしょう。

一方、「他生」は「多少」ではありません。

「他生」とは、仏教的な考え方で、前世や来世など、今生とは別の生を指す言葉です。そのため、「少しばかりの縁」という意味ではなく、「前世からのつながりによる縁」という意味になります。

「袖振り合うも他生の縁」の由来

「袖振り合うも他生の縁」は、仏教の因縁の考え方に根ざしたことわざとされています。

ポイントとなるのは「他生」という言葉です。「他生」とは仏教用語で、今のこの世(現世)とは異なる世、つまり「前世」や「来世」を指します。よく「多生」と表記されることがありますが、「何度も生まれ変わる」という意味合いを含めて「多生の縁」と書くのも誤りではありません。しかし、本来の仏教的な因果の連なりを指す場合は「他生」が一般的です。

昔の日本人は、着物を着て生活していました。狭い道を歩くとき、行き交う見知らぬ人同士の袂(たもと)や袖がふわりと触れ合うことがあったでしょう。そんな日常の何気ない瞬間にすら、目に見えない大きな法則(因縁)を感じ取っていたのです。

「袖振り合うも他生の縁」を座右の銘としてスピーチするなら

この言葉をスピーチで使う際は、単なる「言葉の解説」で終わらせないことが重要です。これまでの人生で「偶然の出会いからどれほど救われたか」「小さな縁がどのように広がっていったか」を語ることで、言葉に説得力と温度が生まれます。

以下に「袖振り合うも他生の縁」を取り入れたスピーチの例をあげます。

小さな出会いの大切さを語るスピーチ例

私の座右の銘は、「袖振り合うも他生の縁」です。

この言葉は、道ですれ違って袖が触れ合うほどの小さな出会いであっても、前世からの深い縁によるものだ、という意味だといわれています。

若い頃の私は、人との出会いをどこか当たり前のもののように考えていたように思います。職場で出会う人、近所で挨拶を交わす人、子どもを通じて知り合う人。その時々は、ただ日常の一部として過ぎていきました。

けれども年齢を重ねて振り返ると、人生の節目で私を支えてくれたのは、そうした何気ないご縁だったと気づきます。思いがけないひと言に励まされたこともあります。久しぶりに再会した人との会話から、新しい楽しみが生まれたこともあります。

「袖振り合うも他生の縁」という言葉は、人づきあいを無理に広げるための言葉ではなく、目の前のご縁を粗末にしないための言葉だと感じています。たとえ短い会話でも、たとえ一度きりの出会いでも、そこには何かしらの意味があるかもしれません。

これからの人生では、出会う人の数よりも、一つひとつの縁を丁寧に受け止めることを大切にしたいと思っています。

最後に

「袖振り合うも他生の縁」は、単なる古いことわざではありません。人生を長く歩んでくると、人との縁がいかに自分を支えてきたかに気づく瞬間があります。家族、友人、仕事仲間、地域の人、旅先で出会った人。すべての関係が長く続くわけではありません。それでも、その時々の出会いが、心に残る何かを運んでくれることがあります。

人間関係に疲れたときにも、新しい出会いに少し身構えてしまうときにも、この言葉は「目の前の縁を、まずは丁寧に受け止めてみよう」と、やさしく背中を押してくれます。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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