妹は「お姉ちゃんのほうが愛されていた」と怒る
今、久美子さんはさして豊かでもない老後資金を、娘と孫に与え続けている。それは何よりも、夫が娘に振るう暴力を、見て見ぬふりをした罪悪感があるから。
「娘にも“ママは私が苦しいときにかばってくれない”とか、“あのとき、私は苦しかった”などと、怒られて、“ママが死んだら私は楽になる”などと言われるんです。我が子から、死ねばいいと言われるほど、私はふがいない母親だったんだと。だから、お金を払うしかない。娘の話によると、結婚していたときはけっこう節約を強要されてたみたいなんですよね。それで、盗んじゃったのかな。不自由な思いをさせたら、また盗みが始まると思って、言われるままにお金を出しています」
次女はそんな母親・久美子さんをいたわり、3か月に1回ほど、好物のうなぎやお寿司をご馳走してくれるという。
「先週、会ったときに、“ママ、2人で北海道でも旅行をする?”と言ってくれたんです。そのとき、つい、“その分のお金が欲しい”と言ってしまったんですよね。すると次女は“はあ? なんで? 私はママに親孝行をしたいんであって、お姉ちゃんの面倒をみたくない。私の気持ちを踏みにじるの?”と言われてしまったんです」
次女にしてみれば、自分よりも姉は期待され、親の手もお金もかけられていたと思って当然だろう。
「そうなんですよ。私は次女を主人の圧力から守ってあげたという思いがありますが、ちっとも伝わっていないんです。北海道旅行の話も立ち消えになりました」
次女からの経済的援助は期待できない。長女は就職活動を1年間も続けているが、結果は芳しくない。孫はこれから教育費がかかってくる。
「私もパートを始めようと思っています。でも60歳の未経験だと、レジ打ちも清掃も門前払い。介護の仕事も考えましたが、やはり見ず知らずの人の下の世話をする自信がないんです」
久美子さんの両親と、夫の母親は存命で、今は両家からの遺産を期待しているという。
「それがなければ、生活保護になるのかしら。今の地価高騰期に家を売りたいけれど、次の住まいもないし……でも、何とかなるような気もするんですよね」
おそらく、なんとかなることは来ないのではないか。親子の関係は深い。親子の愛憎が子供を傷つけ、時には欠損を産むことさえある。負の連鎖をどこで止めることができるのか、それは今後の社会の課題なのかもしれない。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。