「これは、玉乗りしている猫をモチーフにしています。おそらく大正時代に作られたと推定しています。少しゆがんでいるところにも味わいがあります」
●あめや瓶(飴屋瓶)は、海外からの評価も高い芸術レベルの品
今、国内のみならず、外国人からの評価が高いのが、「あめや瓶」と呼ばれる、戦前の家庭にあった“なんでも入れ”のような壺です。1万円程度から、状態がいいものだと、10万円程度で取引されることもあるとか……。
「このあめや瓶は、模様や形に工夫があるものが多いです。写真左の瓶は、花の模様が吹き付けられています。右は、エンボス(浮き彫り)で模様描いています。これらは、繊細で美しいことでも評価を得ています」
当時の職人さんが、ある素材で一生懸命に美しいものを作ろうとする姿勢にも打たれるといいます。
「戦後はガラス製品のみならず、多くの日用品が画一的になっていると感じます。だからこそ戦前のガラス製品のオリジナリティに惹かれます。ちょっとゆがんでいたり、いびつだったり、色むらがあったりして、どれ一つとして、同じものがなく、それぞれに個性があるのです」
入山さんのコレクションには、薬瓶もあります。明治期から戦中・戦後にかけての瓶は、ユニークなデザインのものが多数。中でも、滋養強壮剤として一般的だった『神薬』や、『健脳丸』は時代ごとのデザインが変遷しており、年代別に見てみると変遷が分かります。
骨董市などでよく探すと、戦中・戦後の薬瓶の中には、ヒロポンの瓶も見つかるという。もちろん、中身は入っていません。
「レトロ瓶には、時代の空気が入っているような気がします。想像力をかきたてるから、多くの人を魅了するのでしょう。見ていると、当時の人の生活や考え方、美意識が伝わってきます」
好きなものを集めるうちに、この形になったという入山さん。骨董市に行って、好きなものを購入することから、世界は広がるのかもしれません。
お話を伺ったのは……
入山喜良さん
1943年(昭和18年)東京都生まれ。浅草橋や小岩などで少年時代を過ごし、歯科医師となる。25歳で神奈川県横浜市に歯科医を開業。待合室に私設博物館である『懐かし博物館』を開設。著書に『おかしな駄菓子屋さん』 (京都書院アーツコレクション)などがある。骨董雑誌の寄稿多数。10年ほど前に引退後、趣味の油絵などで個展を開くなど、多彩な活動をしている。
入山さんのコレクションの一部を販売しているのは……
昭和ノスタルジア タイムカプセル
横浜国立大学の近くにある和ガラス専門のアンティークショップ。和食器の印判焼きなども取り扱う。
住所:神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台21-23、電話:090-2162-5100、営業時間:12時~18時30分、定休日:月曜日、第3土曜日
撮影/フカヤマノリユキ 取材・文/前川亜紀