
詐欺被害のニュースを目にすると、「なぜこんなものに引っかかるのだろう?」と不思議に思いませんか?
しかし、詐欺の罠にかかるのは、そんな「自分は大丈夫」と考えている人も多いのです。むしろ「しっかりしている」と言われる人や、物事を自力で解決しようとする責任感の強い人ほど、巧妙な話に巻き込まれやすいという傾向があります。
今回は、責任感の強い人ほど陥りやすい心の仕組みを知り、身を守るための視点の切り替え方をお伝えします。
なぜ「自分は大丈夫」と思う人ほど詐欺に巻き込まれやすいのか
巧妙化する詐欺の手口に対し、知識がある人や注意深い人ほど油断が生じてしまう原因があります。まずは、責任感の強い人も陥りやすい心の傾向を見ていきましょう。
過信と責任感が心の死角を作ってしまう
「自分には判断力があるから騙されない」「怪しい話にはすぐに気づける」という自信は、日常を平穏に過ごすための支えになる一方で、危険を察知する感覚を鈍らせる要因にもなります。
心理学には、自分にとって都合の悪い情報を過小評価し、「自分だけは大丈夫だろう」と思い込んでしまう「正常性バイアス」という心の働きがあります。この心理が働くと、目の前に不自然な点や不審な兆候があっても、「大したことではない」「何かの間違いだろう」と都合よく解釈してしまい、事実の確認や周囲への相談が遅れてしまうというデメリットがあるのです。
また、仕事や家庭で頼りにされてきた人ほど、「自分の問題は自分で解決しなければならない」という強い責任感を持ちがちです。その自負が、誰かに相談することを判断力のない恥ずかしいことだと感じさせ、1人で抱え込む状況を作り出してしまいます。
親切心や孤独感が入り込まれる隙間となる
悪質な手口の多くは、人の善意や心の隙間に巧妙に入り込んできます。「困っているなら力になってあげたい」という親切心は、本来とても温かいものですが、相手のペースに巻き込まれる入り口にもなり得るので注意が必要です。
人には、誰かから好意や親切を受けると「何かお返しをしなければ申し訳ない」と感じる「返報性の原理」という心理があります。詐欺の手口では、親切な態度や熱心な姿勢を最初に見せることでこの心理を引き出し、断りにくい空気を作り出す手法が用いられます。
さらに、日々の生活のなかで感じるふとした寂しさや孤独感も、判断を惑わす要素になります。親身に話を聞いてくれたり、自分を特別に扱ってくれたりする存在が現れると、疑うことよりも「この人を信じたい」という気持ちが先に立ってしまうことがあります。
決して判断力が足りないからではなく、人とのつながりを求めるごく自然な感情が、結果として冷静な目を奪ってしまうのです。
詐欺から身を守るための視点の切り替え方
巧妙な手口から身を守るためには、個人の警戒心や判断力だけではなく、迷ったときに立ち止まることが大切です。被害を未然に防ぐために、日頃から意識しておきたい視点の切り替え方を紹介します。
1.すべてを自力で完結させようとしない
前の章でお伝えした通り、真面目な人ほど自分のことは自分でなんとかしなければいけないと考えがちです。悪質な手口に対して1人で立ち向かおうとすることはとても立派な責任感なのかもしれません。しかし、その責任感こそが詐欺師が入り込むきっかけになります。
必要なのは、「他者に頼ることは無責任」から、「他者に相談することは問題解決への正しい判断」へと視点を切り替えることです。他者に相談するという行為は、自分の弱さや無責任な行動ではなく、巧妙な罠を見破るための有効な防衛策だと捉えてください。
2.即答は相手ではなく自分に失礼だと考える
悪質な勧誘や手口では、「今すぐ決めないと大変なことになる」といった切迫した状況や、「今だけの特別な案内」といった限定的なことを演出して、冷静に考える時間を奪おうとします。真面目な人ほど、早く対応しなければと思いがちですが、その焦りこそが相手の狙い通りの心理状態なのです。
こんなときには、相手に対して「その場ですぐ応じることが誠実」と思うのではなく、視点を自分に戻して「その場ですぐ対応することは自分に失礼」と考えてください。その場ですぐに判断することは、冷静に考えるための時間を自ら手放す行為だと捉えるのです。
時間的な距離を置くことで狭まっていた視野を取り戻すことができ、冷静な判断を取り戻せます。
具体例:1人で対処しようとしたWさんのケース
ここでは、プライバシーに配慮し、複数の事例を統合・再構成したモデルケースをご紹介します。
定年退職を迎えて数年が経つ60代のWさんのもとに、大手通信会社と警察を名乗る人物から「あなたの名義の回線が悪用され、多額の損害が出ている」と電話が入ったそうです。「今日中に指定口座へ調査費用を振り込まなければ、法的な差し押さえの手続きに移行する」と告げられ、Wさんは激しく動揺しました。
真面目なWさんは、「すでに多くの人に迷惑をかけているのだから、早急に片付けなければいけない」と考え、家族に心配をかけまいと1人で事態を収拾しようとして、周りが見えなくなっていたと言います。
Wさんは、自宅に保管していたタンス預金で工面しようと、押し入れの奥からお金を探していました。その普通じゃない態度に気づいた妻から、「一体何を探しているの?」と声をかけられたそうです。
Wさんは「何でもないから放っておいてくれ」と必死に押し切ろうとしました。しかし、ただごとではない様子に気づいた妻に「そんなに手が震えているのに、何でもないわけがないでしょう」と正面から問い詰められ、張り詰めていた糸が切れるように「実は今、大変なことになっていて…」と事情を口にしたと言います。
話を聞いた妻から「急にお金を振り込めなんて、どう考えてもおかしい」と強く引き止められ、夫婦で一度落ち着いてから公的な相談窓口へ直接電話して確かめたことで、ようやく激しいパニックから我に返ることができたと振り返っています。
「自分は大丈夫」という考えは捨てて
自分は大丈夫という過信、そして親切心、孤独感、責任感など誰もが持つ自然な心の傾向が隙になります。
防犯に必要なのは、そうした心の傾向を知った上で、急かされてもその場で応じずに判断を保留すること、そして1人で抱え込まずに周囲へ確認することです。
そのわずかな時間と確認作業が、結果として自分の生活を守ることにつながります。
文・構成/藤野綾子
精神保健福祉士、産業カウンセラー、EAPメンタルヘルスカウンセラー、メンタルヘルス・マネジメント検定II種の資格を持つ。大学に通い直し、心理の国家資格取得に向けて勉強中。教育施設、就労移行施設などでカウンセラー研修、実務も続けている。











