文/鈴木拓也

「師匠」という言葉から、何を連想するだろうか。
もしかすると、厳しい上下関係に基づく、古臭い学びのあり方と思われたかもしれない。実際、意識して師匠を持つ人は少数派であろう。
しかし、師について学ぶことには、大きなメリットがある―そう説くのは、歴史家・作家の加来耕三さんだ。
加来さんは、歴史に名を残す人の多くは、良き師に学んで偉業を成し遂げたと指摘。著書『歴史の一流は「師匠」から何を学んだのか』(クロスメディア・パブリッシング https://book.cm-marketing.jp/books/9784295411895/)では、実例を挙げながら、今に生きる我々に師匠を持つことをすすめる。
現状打破につながることも
AIに何でも聞ける今の時代、あえて師匠を持つメリットを、加来さんは3つ挙げている。
1つめは、基本となる「型」を教わることができる点。この型を、教わったとおりに繰り返し、自分のものにすることが大事。これは、武道の守破離の「守」の段階に相当する。型を身につけたら、そこに独自の考えを加え(破)、工夫を重ねて師匠から独立する(離)。逆に、型がないまま我流で進めると、いずれ越えがたい壁にぶつかってしまい、そこで成長が止まってしまう。
メリットの2つめは、独学に比べて、はるかに修得が早くなることだ。師匠が何十年もかけて身につけたことを、効率的に教えてくれるのだから、それも当然。限られた人生の年月を、かなり節約できるのは間違いない。
3つめは、現状を打破する助けになること。例えば、坂本龍馬が学んでいた神戸海軍操練所が閉鎖され、行き場を失った龍馬を救ったのは、師が紹介してくれた人脈であった。師についたことが、思わぬ打開策をもたらすことは少なくないのである。
師匠の不在で自滅した土方歳三
本書では、師匠のおかげで飛躍的な成長を遂げた、歴史上の人物たちが取り上げられている。
その1人が勝海舟。10代の頃は、剣術家を師としたが、20代で蘭学にのめりこむ。海舟は、筑前福岡藩士の蘭学者である永井青崖を師匠に選び、彼の江戸屋敷へ足しげく通った。ここでオランダ語の基礎を学ぶとともに、佐久間象山の私塾にも入って西洋流砲術や兵学の研鑽を積んだ。
西洋に関する豊富な知識が幕府に認められた海舟は、長崎の海軍伝習所の構成員に加わる。そこでは、オランダ人の海軍士官を師と仰いだ。同期生が1年のカリキュラムを終えるや去っていくのを尻目に勉学を続け、ついには咸臨丸の艦長に任じられ、渡米を果たすことになるのである。
次々と師匠を得ながら出世を果たした海舟と異なり、師匠を持つことがなかったのが土方歳三だ。若い時分には、近藤周助を剣術の師としたが、免許皆伝には至らずに終わる。
加来さんは、歳三の性分を次のように分析している。
型稽古や基礎を嫌って、常に我流をもっぱらとしたため、彼の剣には精神修行の要素がなく、喧嘩のレベルで勝ちさえすればいい、武術は武士になるための手段に過ぎない、との思い込みが強かったように思われます。
(本書065pより)
新撰組の結成後も、この傾向は続いた。人間性も教養も育たず、組織内で異を唱える者は、思慮もなく粛清。官軍との戦いも負け続きで、最後は五稜郭の戦いで斃れた。もし、歳三が、良き師のもとで学びを探求していたら、「まったく違う人生」であったのではと、加来さんは記している。
長所は伸ばし、短所には目をつぶる
師匠といっても、誰でも良いわけではなく、その役目に向いている人もいれば、向いていない人もいるという。
加来さんは、その適任者には、6つの資質のいずれか1つ以上が備わっているとする。
例えば、「弟子の長所を見つけ、伸ばしてくれる」という資質。高杉晋作の師であった吉田松陰は、まさにそのタイプであった。
長州藩の上級藩士に生まれた高杉は、「あくせく勉強して出世する必要がなく」、学問も剣術も途中で投げ出すほど根気がなかった。
そんな高杉に松陰は、「君には勇気がある。決断力もある」と褒めた。
松陰はさらに高杉に対し、学問は出世のために学ぶのではなく、世のため人のためになるような学問をすべきなのだ、と説き、「君ならできる」と励ましました。
(本書152pより)
また松陰は、弟子の久坂玄瑞と競わせるように学ばせ、より成果が上がるようにした。
かくして高杉は、生まれ変わったかのように勉学に励むようになり、後世に名を残す人物となった。
もう1つの資質が、意外にも「短所に目をつぶることができる」だ。信長の父、織田信秀は、まさにその方針を徹底した。我が子の非凡な才能を伸ばすため、信長が興味を持ったこと(もっぱら軍事)だけを学ばせた。当時、歌学や儒学などは必修の教養であったが、信長は興味を示さなかったので、学習を強いることはしなかった。
長じて信長は、戦場において天才的な能力を発揮し、また、既成概念にとらわれずに物事を考える、戦国武将の中でも比類なき存在へと躍り出たのである。
本書を読むと、いかに「歴史の一流」が、師に学んで実力を高めていったかが理解できる。もし、人生を独力で切り開くことに困難を覚えているのなら、あなただけの師匠を探し求めてはいかがだろうか?
【今日の教養を高める1冊】
『歴史の一流は「師匠」から何を学んだのか』

定価1815円
クロスメディア・パブリッシング
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。











